なるべく「シンプル」を目指した

――池井戸潤さん原作作品へのご出演は「半沢直樹」以来、2作目となります。「半沢~」の時は銀行員の妻という役どころでしたが、今作では銀行員ですね。人々の欲望が渦巻く中、「正しくあろう」とする愛理をどのように意識して演じられたのでしょうか。

 愛理は自分にできることをただ真面目にやっているだけで同僚から目をつけられてしまう人ではあるんですけど、愛されるべきところで愛されているなと感じました。

 愛理を演じる上で意識したのは、なるべく個性や味を加えたりなどせずに「シンプル」でいようと思っていました。

――正しさや強さを強調したということはなく?

 そうですね。そこが強く出てしまうときっと目をつけられる存在にはならないだろうから、なるべく強さが目立たないように。だからといって弱くもなりすぎないように。

 愛理はずっと画面に出ている存在ではないので、ちょこちょこと出る中で、みんなに責められて泣くところまで感情を持っていくのは、緊張しながら演じていました。

――愛理は家族を養っているという役どころでしたが、上戸さんも女手一つで育ててくださったお母さまに色々な恩返しされていますよね。

 自分が今もこのお仕事をさせてもらっているのは家族のおかげなので、そのお仕事でいただいたお金は家族に使いたいと思っています。小さいころから苦労してきた母親をずっと見てきたので、いつか大きい家を買ってあげたいというのは昔からの夢でした。その思いで10代の頃は突っ走ってきたところがあるので、そこは愛理との共感・共通ポイントですね。

――個性の強い演者さんが多い中、上戸さんと玉森(裕太)さんが一服の清涼剤のように感じました(笑)。

 準備稿の段階から、私の中では玉ちゃん(玉森裕太)演じる田端に「チャラさ」を感じていたんです。でもいざ現場に入ってみたら、玉ちゃん自身がとても真面目な方で、何回撮ってもチャラくなくて「玉ちゃん」みたいな(笑)。これ、全然ディスってないですよ! 阿部さんの声だけのオンリー録りにも根気強く付き合っていて、そういう玉ちゃんの実直さやピュアさに胸キュンでしたね。

2023.02.16(木)
文=根津香菜子
撮影=平松市聖