この記事の連載

「僕らの時代を経て、そしてその先の世代に繋いでいきたい」

――二代目としてその名を継がれた吉右衛門さんが、初代の芸を顕彰し後世に伝えるべく2006年に始められたのが「秀山祭」。そこで追善狂言として上演することの意味を感じます。

 吉右衛門のおじさまは飽くなき探求心で、初代の芸の継承とその象徴である「秀山祭」を続けることに心血を注いでいらっしゃいました。僕たちから見ればおじさまご自身がとんでもなくすごい方なのに、「初代はこんなものではない、まだまだだ」とずっとおっしゃっていました。生意気なことを言わせていただくなら、決して満足なさらずに初代さんに追いつこうという思いをずっと持ち続けられた結果、おじさまはあれだけの役者になられたのだと思います。

――身をもって芸の素晴らしさを体現してくれた尊敬する偉大な、憧れの存在があり、そこに追いつきどうにか超えようという思いが伝統となり、次世代へと継承されていくのですね。

 自分はただただ教えていただくばかりで何の期待にもお応えできていないのですが、二代目のおじさまがどれだけすごかったかをずっと言い続けるつもりです。僕たちは、僕たちが拝見してきたおじさまのすごさを、下の世代に伝えられるようにならなければいけない。

――この一周忌追善の公演に接するだけでも、実際に吉右衛門さんの舞台をご存じなくとも敏感な方には、十分にその偉大さが伝わると思います。

 そしてよくご存じの方は、どの演目をご覧になってもおじさまの姿がありありと目に浮かぶことと思います。おじさまが得意とされた『寺子屋』、『仮名手本忠臣蔵 七段目』、そして『松浦の太鼓』。それから松貫四の筆名でおつくりなった創作歌舞伎『白鷺城異聞』と『藤戸』、ゆかりの演目や当り役を吹き寄せ風にした『揚羽蝶繍姿』。こうした形で追善ができるというのは、なかなかないことだと思います。

――この追善を経て、そこから先の未来について思うことを、最後にお聞かせください。

 立役ではないのでおじさまがなさっていた役を受け継ぐわけではないけれども、『石切』にしろ『松浦』にしろ女方だからこそ舞台で間近に接する機会をいただくことできました。そこで学んだ精神性、おじさまがなさろうとしたことは何だったのかを考え、それを肝に銘じてひとつひとつの舞台に取り組んでいきたいと思います。僕らを経てその先の世代にもそれが受け継がれ、やがて「秀山祭」でおじさまの百回忌をできるような未来に向かって進んでいかなければと思います。

前篇を見る

中村米吉 (なかむら よねきち)

1993年3月8日生まれ。五代目中村歌六の長男。2000年7月歌舞伎座『宇和島騒動』の武右衛門倅武之助で五代目中村米吉を襲名し初舞台。歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」では第一部『白鷺城異聞』、第二部『松浦の太鼓』、第三部『昇龍哀別瀬戸内 藤戸』に出演。

秀山祭九月大歌舞伎
二世中村吉右衛門一周忌追善

2022年9月4日(日)~27日(火)
第一部:白鷺城異聞/菅原伝授手習鑑 寺子屋
第二部:松浦の太鼓/揚羽蝶繍姿
第三部:仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場/昇龍哀別瀬戸内 藤戸
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/776

← この連載をはじめから読む