長澤まさみの言葉の美学
「他人だからこそ響く言葉がある」
映画『百花』で魅せた“優しさ”の本質

自分の雑念が映像に映らないように、誠実に

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――認知症のように人生には「どうしようもなく逃れられないこと」がたくさんあります。長澤さんはそういう問題に直面した時、どんな心構えをされていますか。

　私の場合は「とりあえずやってみてダメなら諦める」ですかね。あとは、危険だなと思ったら、自分の勘を信じて踏み込まないということも重要かもしれないです。

　あとは些細なことですが、友達からお誘いを受けたけど、その時の自分の体調や明日の仕事などの不安があって誘いを受けるべきか悩む時ってあるじゃないですか。そういう時には行ってもお互いが良い気持ちにならないので、断る。「逃れられる時には逃れておく」潔さも大切だと思います。

――そういうとき、相手を傷つけずに伝えられるかが重要ですね。『百花』でも、香織は伝えるべきことは伝え、決して上辺だけの優しさで百合子さんや泉に接していませんでした。

　そういう時に“いい言葉”を知っているといいですよね。その人の呼びかけに対して、出来るだけ傷つけるような言葉を使わずに、こちらの気持ちもちゃんと伝える。そういう思いやりを持った言葉の交わし合いが、自分の成長を作っていくと思います。

――長澤さん自身が人との関わりや自分の思いを言葉にするうえで大切にされていることはありますか？

　シンプルですが、「自分が言われて嫌なことは人に言わない」ということはいつも心がけていることですね。あとは、自分が思っていることをちゃんと伝えようと思っています。

　私は子供の頃から自分の意思がはっきりあるタイプだったので、他人と同調するということがすごく苦手だったんですよ。今は大人になったので、協調性も持つようになりました(笑)。こういったインタビューの場でお話することも多いので、言葉は拙くても、できるだけ自分の気持ちを分かりやすく伝えられたらな、と思っています。

――香織も自分の気持ちを割と口に出す女性なので、そこは長澤さんとの共通点でもありますね。

　そういうところは当て書き(俳優を決めてから脚本を書くこと)されたのかなと思います。もちろん、香織ほどできた人間ではないですけど、まっすぐしか歩けないみたいなところは香織を演じる上で反映されている気もするし、共感するところでもありました。

――もし川村さんが本当に長澤さんを当て書きして香織を描いたとしたら、すごい洞察力ですね！

　川村さんは本当によく俳優を見ていますし、プロデューサー脳と監督脳、両方ある人だから怖いですよ～。

　監督って、一番信用ならないんですよね。現場では一番信用する人なんだけど、こちら(役者)はどう料理されるか分からないじゃないですか。何を考えてるのか、一番腹の底が見えない人なので、恐ろしい人だなと思っています(笑)。

――本作から長澤さんが感じたことを教えてください。

　いつか自分も立ち会うであろう人生の局面が、この物語にはたくさん描かれています。どういう形なのかは人それぞれ違うのかもしれないですけど、見ようとしない現実や漠然とした先々の不安みたいなものは「他人事ではないな」と共感することがたくさんありました。

――本作のような社会的なテーマを扱う作品に出演されるとき、長澤さんはどんなことを思って作品に参加されていらっしゃるのでしょうか。

　常に役と誠実に向き合えていたらいいなと思っています。多くの方に見てもらいたいという気持ちももちろんありますが、良いか悪いかは他人が決めることなので、「あの作品よかったよ」と言ってもらうために頑張ることはしません。

　私はあまり器用なタイプではないので、邪念を持たないようにしないと、自分の中の雑念が映像に映る気がするんです。なので、どんな作品でも一生懸命その役と向き合って、嘘がないようにするということをこれからも大切にしていきたいと思います。

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2022.09.06(火)
文＝根津香菜子
撮影＝釜谷洋史
ヘアメイク＝スズキミナコ
スタイリスト＝上杉美雪(SENSE OF HUMOUR)