男のハダカをネタに美術史を楽しむ!?
西洋美術に見る男性ヌードの変遷

ジャン=バティスト・フレデリック・デマレ「羊飼いパリス」(1787)

 西洋美術史で名高いヌードの絵画といえば、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、ゴヤの『裸のマハ』、マネの『オランピア」など、女性の裸体を描いた作品を思い浮かべる人がほとんどだろう。そのいっぽうで、男性のヌードはどこか陽の当たらない存在になった感が否めない。9月24日からパリのオルセー美術館で始まる「男性/男性 1800年から今日までの美術における男性ヌード」展は、注目される機会の少ない男性ヌードを美術史の流れに沿って紹介する展覧会だ。

ピエール・エ・ジル「メルクリウス」(2001)
(C) Pierre et Gilles

古代ギリシア彫刻の男性の裸体像が
美のイデアの象徴として高く評価

 この展覧会は18世紀の新古典主義の影響を受けた19世紀の絵画から20世紀以降の現代アートまでをメインに据えている。

 17世紀から19世紀までは、男性ヌードは西洋絵画の基本的な要素のひとつとされ、アカデミックな美術教育でも重視されていた。18世紀ドイツの美術史家で新古典主義絵画の理論的支柱であったヴィンケルマンは、古代ギリシア彫刻に芸術の完成形を見いだし、なかでも男性の裸体像を高く評価した。こうして男性ヌードは、美のイデアを象徴するものとなった。

 19世紀では新古典主義のジャック=ルイ・ダヴィッドや象徴派のギュスタヴ・モローなどが、この文脈のなかで優れた男性ヌードを残した。そして19世紀末から20世紀にかけては男性ヌードの表現も多様化し、ムンク、ピカソ、キリコ、ベーコンなどの作品がその実例として示されている。

 また現代アートの領域ではピエール・エ・ジル、デヴィッド・ホックニー、ロバート・メイプルソープなどの作品を展示。彼らの作品を西洋美術の数百年の歴史的な文脈のなかで捉え直している点も興味深い。

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2013.09.25(水)