昔、霞が関でその頃はまだ元気いっぱいだった小松左京氏と会ったことがある。小松氏は、短時間の立ち話だったにもかかわらず、つい先日天皇陛下にお会いした話をしてくれた。その言葉の端々には、自分が会って楽しかった人物としての陛下が、生き生きと映し出されていた。
私は小松氏と全く同年だったので、日頃から少々無礼な口をきく空気も許されていた。
「小松さんから、そういう陛下像を聞くとは思わなかったわ。もう少し批判的な、と言うか……」
すると小松氏は楽しげに私に反論した。
「いや、あの方は大した方だよ。素質も素質だけど、生まれた時から、超一流の知性たちの実に正しい話を聞いて来てるから……」
ご退位以後、長年のお疲れを癒やされたら、皇后さまには前以上に世間の隅々をご覧になって頂けたら、と希っている。書店にももっと頻繁に立ち寄られ、児童図書の棚の前でもゆっくりなさって頂きたい、と思う。そこで初めて両陛下の全日本発見の旅が完成されるというものだ。
「冷凍庫の中にステーキ肉があったって?」ザルやスリッパまで盗まれて…曽野綾子が警察から聞かされた泥棒の“意外な事情” へ続く
2022.05.19(木)
文=曽野綾子