そういうご報告をしたいのである。

 それから最近の農家にある大根洗い機の構造をお話ししたこともある。陛下は自動車の「自動洗車機」の構造などご覧になったこともないと思うが、私は短時間、自動車の「自動洗車機」と大根の洗い機の構造の一致点をお話しする。誰か知らないが、最初に「自動洗い」の装置を考えついた人は、ほとんどどんな「洗い機」でも作れるようになった。「議事堂を洗え」などと言われると困るが、大仏さまだって機械が大きければ洗えるはずだ。子供だって、大人だって立ったまま洗える。

 農村の人たちは、長い年月、暑さ寒さに耐えて、厳しい農作業を続けて来た。その原則は変わらないのだが、それでも土つきの大根を、両側で廻っているタワシというべきか、ブラシというべきかわからない洗浄装置の中に突っ込むと、大根1本あたり1分以内で泥が落ちるような機械はできた。大根1本1本を冷たい思いをしながらタワシで洗っていた時代よりは楽になったというべきだろう。私はこうした自分にも理解できる程度の機械化が大好きだし、他人の場合でも幸福の実感を感じられる性格であった。そして勝手に、農家の人たちの労働が少しでも楽になったとお聞きになれば、両陛下もそれを喜んで下さるだろうとも思うのである。

 両陛下のご退位以後のことは、拝察する方法もないが、私が普段から見聞きしている世界のことなら、お目にかけたいし、話もお聞き頂きたいと思う。葉山の御用邸にご滞在の間に、私の家で夕食を召し上がって下さることもある。「東京の料亭の人を呼ぶの?」と聞く人もいるが、すべて私の手料理だ。それで初めて両陛下は、今、庶民は何を食べているかお感じになれるだろう。我が家で作った家庭料理に大根が加われば、自然に近隣の農家が、今年は大根でお金が儲かったかどうかにも話が及ぶ。両陛下は村をお通りになる時、時々お車を停めて作業中の方たちとお話をなさることもあると村の人たちは喜んでいる。

2022.05.19(木)
文=曽野綾子