そこで今回のテーマの「気圧の変化」が浮上する。

 

気圧の変化と身体の変化

 平田幸一医師が続ける。

「台風だけでなく“雷”の発生を片頭痛で予測する人もいます。なぜそんなことができるのかと言えば、それはその人に備わった“感知能力”によるもの。

 これだけ天気予報が正確になった現代からしてみれば必要性を感じづらいかもしれませんが、これが太古の昔であればどうでしょうか。

 環境の変化を感知することは、いまと違って安全に身を隠す頑丈な建物を持たなかった原始人にとって、 “生命にかかわる”重要な問題です。それをいち早く察知して、少しでも命の助かる行動をとることの重要性は、現代とは比較にならなかったはず。

“頭痛”というつらい症状のあとに嵐が来る――という経験を繰り返すことで、事前に身を守る準備ができる。つまり一種の天気予報だった可能性は捨てきれません」

 動物や魚、昆虫の中には「ロレンチーニ器官」という感覚器を持つものがある。この器官は微弱な電位差を感知し、これによって暗闇でも障害物との衝突を避けたり、獲物を捕らえることができる。

 天気予報のなかった大昔の人間は、これと同じ機能を持っていたのかもしれない――というのが平田医師の推理だ。

 もちろんさらなる検証は必要だが、文明を持ち、悪天候でも安全に暮らせるようになるにつれ、この危険察知機能は退化していった。しかし、一部の人にこの機能の一部が残った、と考えると、たしかに辻褄は合ってくる。

 中には地殻の変動という危険、つまり「地震」を片頭痛によって察知する人もいるという。

「私の患者の中にも、東日本大震災の発生を直前に察知して片頭痛の発作を起こしたという人は複数います。それを信じるか否かは別として、そのような片頭痛患者は、気圧の変化や音や匂いなど、いくつかの発症要因を複合的に持っていることが多いのです」

じつは新薬も…

 片頭痛による台風の予知能力が解明されたとしても、片頭痛は痛い。仮に“予知能力”がついてくるとしても、気象観測技術が高度に発達したいま、台風発生を伝えるために頭を痛めるのは合理的とは言えない。

 日本では今年、片頭痛の発症を予防する3つの新しい治療薬が臨床導入された。薬価が高いのが頭痛の種だが、これまで激痛に苦しめられてきた患者にとっては朗報だ。

 少なくとも台風の予知のために頭痛を我慢するのは得策ではない。それは気象庁に任せて、次の発作が来る前に、医療機関の「頭痛外来」などを受診することをお勧めします。

2021.12.04(土)
文=長田昭二