古き神社仏閣や歴史的な建造物が建ち並び、今なお伝統と革新が交錯する魅力的な街・京都市。
そんな京都市から少し足を延ばして“北京都”へ行ってみませんか? そこにはいつもとはまたひと味違う、新しい京都が待っていますよ。
第五弾の舞台はまるでタイムスリップしたかのような里山の町・美山。
美山町の「かやぶきの里」には39棟のかやぶき屋根の民家が現存しており、自然と人間とか共存する、日本の原風景とも呼べる風景が今なお残っています。
のんびり散策してみれば、心が癒されますよ。
四季折々の表情を見せる「かやぶきの里」
周囲を山々に囲まれ、清流・由良川が流れる美山。川沿いに立ち並ぶ民家は多くがかやぶき屋根です。厳しくも豊かな自然の中に佇むその集落はまさに“自然との共存”を体現しているよう。
中でもここ「美山かやぶきの里」は39棟ものかやぶき屋根の家屋が残っており、今でも実際に人々が生活をしています。
素朴でありながら、滋味深い風景。今では珍しくなったこの光景を後世に残したいという想いから、1993年に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。
現存している家屋の多くは江戸時代に建てられたもの。ゆっくり散歩をすると、自然と歴史の香りにほっこりと癒されます。
自然に包まれた里・美山では訪れた季節ごとに違う景色を見せてくれます。
春には桜やレンゲが咲き乱れ、里山をピンク色に染め、夏には眩しい緑とすくすくと育った稲が秋の豊穣を予感させます。実りの秋には黄や赤に染まった紅葉が里を鮮やかに彩ります。そして冬、里一面を真っ白に雪が覆います。しんと静まり返った雪景色の里はまるで幻想空間。
画一化な都会の街とは異なり、里山の表情はとっても豊か。その時々によって屈託ない表情を見せてくれる美山にはまるで古い友人のような安らぎがあります。
近くで見ると圧巻、夏は涼しく、冬は暖かいかやぶき
美山の里に足を踏み入れて、近くでかやぶき屋根を見てみると、想像していた以上に大きいことに驚きます。そして、苔むしたその風貌も相まって、家そのものが生きているかのような存在感があります。
かや(茅)とはススキや稲わらのこと。この美山では主にススキを使っているそうです。
かやには油が含まれているため、雨をはじき、音を吸収するので、家の中はとっても静か。
屋根の厚みもあり、夏には暑さを、冬には冷気を遮断する効果もあって、とても居心地がよいのだとか。高温多湿な日本の夏に非常に適したものとして長く受け継がれてきたというのも頷けます。
しかし、近代化の結果、かやぶきの屋根は徐々に姿を消していってしまいました。ふきかえるための労力やコストが大きいかやぶき屋根は地域の助け合いがあってはじめて成立するものだからです。この美山でこれだけの家屋が残っているのは歴史的景観と住民の生活を両立させるため、住民たちが助け合う習慣が今でも保たれているからなのです。
実際に里を歩き、家屋に入ってみると、古くからの知恵が、そしてそこに暮らす人々の生活がどんなに豊かなものだったかと感心します。
2021.06.25(金)
文=CREA編集部
写真=鈴木七絵