「私のこれまでの数多くのインタビューが、私の言葉とまるで違っていることをいつの間にか感じていました」「私の言葉を引用して前に置き、そこに注釈をつけること、そんなものの中には、非常に無礼なものが多いのです。たとえば、キム・ギドクのこのような言葉からみると、彼はお母さんの愛を受けられなかったようだ、などというような…とても恥ずべき話です」(『キム・ギドク、野生あるいは贖罪羊』より)。

「彼は韓国の記者からはあまりインタビューを受けようとしなかった。韓国メディアは嘘ばかり書くとよく言っていた。韓国の記者たちは映画より私生活のような部分に対する質問が多く、彼の気持ちを悪くさせたようだった。それに比べて私生活に対する言及がない日本メディアのインタビューはよく受けてくれて、私も何度か彼にインタビューをした。彼は物静かにものを言う方だが、とても達弁家でもある。お酒はあまり飲めないが、お酒を飲む雰囲気は好きだと話していた。基本的に人が好きで楽しませようとする方だった」(土田真樹さん)。

 2012年、『嘆きのピエタ』で世界3大映画祭のグランプリを受賞すると、冷たかった韓国内の評価も徐々に変わってきた。彼の名前には「巨匠」という修飾語さえつき始めた。しかし、「#MeToo」論争をきっかけに、キム・ギドクは「巨匠」から「破廉恥漢」へと墜落してしまったのだ。

 2017年、映画『メビウス』にキャスティングされた女優のAさんはキム・ギドク監督を暴行や強要、強制わいせつ致傷などの容疑で告発した。彼女は2013年の映画出演当時、キム監督から、「演技指導という名目で、頬を殴られたり、事前協議が行われていないベッドシーンを強要された」と暴露した。ただ、韓国裁判所は暴行の疑いだけを認め、キム監督に罰金500万ウォン(約48万円)を言い渡した。

 

 そして、2018年にはMBCの時事番組「PD手帳」が、キム監督が地位を利用して女優やスタッフにセクハラや性的暴行を行ったという疑惑を集中的に報道した。これに対し、キム監督はMBCなどを名誉毀損と誣告などの疑いで告訴したが、検察は「容疑なし」と結論付けた。

2021.05.16(日)
文=金 敬哲