留学生小説 #02『サード・キッチン』

 作中では、多人種で多文化を肯定し、差別や社会で起きている問題を共有していくことを〈サード・キッチン化する〉と呼んでいるが、こうした広い視座で世界を見られたらと思う。尚美の成長だけでなく、各国の料理描写なども興味深い。

『サード・キッチン』

白尾 悠 河出書房新社 1,800円

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マイノリティ向け学生食堂での さまざまな文化の交流

 日本からの海外留学生は、英語圏を中心に8万人ほどだという。『サード・キッチン』の主人公・ナオミこと尚美は、アメリカの大学に進学したものの、言葉の問題以上に自分の社交性のなさに孤独感を募らせていた。

 だが、隣室のアンドレアとともに招かれて知った〈マイノリティ学生のための“セーフ・スペース”を標榜したコープ〉と出合い、これまで意識しなかった世界への扉を開ける。

 サード・キッチンというコープに集う人々が語るエピソードは実に多種多様。出身地だけではなく、経済格差やLGBTQなども偏見の種となっていることを知り、ナオミ自身が、実はステレオタイプに他者を見ていた自分に気づく。

 誰もが自分とは違うひとりの個性で、理解しきれなくても考え続けること。ナオミの留学生活を通して、読者にもその大切さが伝わってくる。

Column

今月の「〇〇」小説

刊行されたばかりの話題の小説を、ひとつのくくりをつけてご紹介します。

2020.12.29(火)
文=三浦天紗子

CREA 2021年1月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

贈りものバイブル

CREA 2021年1月号

特別な一年に想いを伝える
贈りものバイブル

特別定価900円

思いもかけない日々となった2020年。いつもと違う毎日のなかで新しい習慣ともなんとか付き合ったり、戸惑うこともあったと思います。思い通りに会えない日々が続いても、贈りものという形で気持ちを届けたい――。誰もが頑張った一年と、新しい明日に贈る、感謝とご褒美、ときどきエール。いろいろな想いをギフトにして届けます。