留学生小説 #02『サード・キッチン』
作中では、多人種で多文化を肯定し、差別や社会で起きている問題を共有していくことを〈サード・キッチン化する〉と呼んでいるが、こうした広い視座で世界を見られたらと思う。尚美の成長だけでなく、各国の料理描写なども興味深い。
マイノリティ向け学生食堂での さまざまな文化の交流
日本からの海外留学生は、英語圏を中心に8万人ほどだという。『サード・キッチン』の主人公・ナオミこと尚美は、アメリカの大学に進学したものの、言葉の問題以上に自分の社交性のなさに孤独感を募らせていた。
だが、隣室のアンドレアとともに招かれて知った〈マイノリティ学生のための“セーフ・スペース”を標榜したコープ〉と出合い、これまで意識しなかった世界への扉を開ける。
サード・キッチンというコープに集う人々が語るエピソードは実に多種多様。出身地だけではなく、経済格差やLGBTQなども偏見の種となっていることを知り、ナオミ自身が、実はステレオタイプに他者を見ていた自分に気づく。
誰もが自分とは違うひとりの個性で、理解しきれなくても考え続けること。ナオミの留学生活を通して、読者にもその大切さが伝わってくる。
Column
今月の「〇〇」小説
刊行されたばかりの話題の小説を、ひとつのくくりをつけてご紹介します。
2020.12.29(火)
文=三浦天紗子