徹底した国民管理は日本でも可能か。

 繰り返しになるが、台湾の防疫の成功の裏には、感染者と濃厚接触者の徹底管理があり、管理に際しては、さまざまな機関の情報に紐付けされている保険証と同じ身分証番号が活用されている。日本で話題となったマスクの管理販売も、この番号によって購買履歴の確認をしている。

 日本のマスク市場がかかえる諸問題のニュースのコメントに「台湾を見習ってマイナンバーで販売すれば転売が防げ、皆に行き渡る」という声がある一方、「マイナンバーを利用したら、個人情報が……と言い出す層が必ずいるから無理」との意見も目にする。※マスクの管理販売については、次回レポートを参照。

 身分証番号による管理のほか、携帯電話のデータから行動記録が政府に筒抜けであることについても、個人的には「自分は外国人という異物なので、管理されるのは仕方がないこと」という思いである。

 管理されるのが嫌なら母国に帰れ、という話だ。そもそも、やましいところがなければ、逃げも隠れもする必要がない。

 では、台湾人はどう感じているのか。周囲の人々に尋ねて回ってみたが、既に当たり前になっていて、特に気にしている様子はなかった。しかし、そんな呑気なことを言っていられるのは、現政権が信頼のおける政府だからに他ならない。

 もし、政府が悪用しようとすれば、少なくとも台湾人は何らかのアクションに出るだろう。台湾では、政府が国民を管理する一方、国民も政府の動きをしっかりと監視している

 ちなみに、最新の世論調査では、政府の防疫に対する満足度は91.7パーセント、中央流行疫情中心の陳時中指揮官への満足度は94パーセントに迫るという。

 国民の安全を最優先する政府の動きが見えるからこその番号制。信頼に足る政府であるからこその国民の理解と協力。この双方向性が、誰の目にも明らかなほど正しく機能した結果が、今の台湾の姿だといえる。

 今後の日本で、マイナンバーが有効活用されるかどうかは、ここにカギがあるといえるだろう。

※記事の内容は2020年5月7日(木)現在のもの。制度や現況の内容は一部であり、各自治体、エリアなどによって異なることもあります。

堀 由美子 (ほり ゆみこ)

ライター。慶應義塾大学文学部を卒業後、広告制作会社にて、大手メーカーのブランドコピー、商品バッケージ原案等を担当。ライターとして独立後は、女性誌にて多ジャンルにわたる特集に携わる。2011年より台湾在住。現在、CREA WEBにて、台湾発の占い連載・悟明老師の「神鳥さん占い」「世界の空気」を担当。占いの執筆に際しては、イタコとして“お告げの一言一言の熱量を変えることなく、クリアに伝える”をモットーとしている。