その世界を享受する歓び

 最新出演作の映画『止められるか、俺たちを』では故・若松孝二監督の演出助手として、若松プロに入った吉積めぐみさんという実在した女性を演じました。

 私は生前の若松監督とはお会いできませんでしたし、1970年代は経験していない時代なので、当時を知る手がかりになりそうな資料にはたくさん目を通しました。

 ピンク映画を撮っていた男社会の若松プロダクションに21歳のめぐみさんが入るというのは、ワンダーランドにひとりで迷い込んだような感じだったんじゃないかと思います。

 本でも映画でも、つくり手の紡ぎ出す言葉や世界をひたすら享受し、鑑賞後に様々なことを考えるというのを私は楽しんでいます。

 情熱的だったあの時代の若者たちの青春物語に、お客さんにも浸っていただけたら嬉しいです。

 本屋さんも様々な世界に出合えるワンダーランド。私はたいてい、文庫本の棚に直行します。

 カバーの印象と裏の解説で、自分好みの本かどうか、なんとなくわかりますし、書店員さんの手書きポップでおすすめと書かれていたら、まず手にしてみます。

 もしも、私が本屋さんをつくるとしたら、お茶も飲めるブックカフェにして、大人が子ども心に返ることができるファンタジーや絵本を充実させたいです。

 違う人生だったらカフェを開きたかったという夢もあったので、想像するだけでも楽しいです。

2018.10.06(土)
Text=Tomoko Kurose
Photographs=Shota Matsumoto
Styling=Junko Okamoto
Hair & make-up=Naoki Ishikawa
Thanks to=青山ブックセンター本店

CREA 2018年11月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

101人の本と音楽とコーヒー。

CREA 2018年11月号

人生をちょっと自由にする、心の「スイッチ」
101人の本と音楽とコーヒー。

定価780円

慌ただしい毎日に、ちょっとひと休み。本と音楽とコーヒーを愛する101人に、大切な1冊、1曲、1杯を教えてもらいました。ちょっとだけ自由な気持ちになれたり、自分らしくいられるような、皆さんの心の「スイッチ」をご紹介します。