コンペティション部門の
候補に入るだけでも大変!
ということで、どうして『万引き家族』が最高賞を受賞したのか、カンヌに15回通っているマダムアヤコなりに分析してみよう。
その前に少しおさらい。パルムドールを受賞するには、コンペティション部門の候補に入らないとならない。コンペティション=競争なので、ライバルがいるわけだ。だから「映画祭はいいが、映画に順位を付けられるのは嫌いだ」と公言するウディ・アレンは、毎回コンペ外を意味する「アウト・オブ・コンペティション」部門にしか出品しない。
逆に、クリント・イーストウッドは、カンヌに出品する際はほとんどコンペ。10年前に『チェンジリング』で出品したとき、「そこにコンペがあるなら、挑戦しない手はない」と、まるで登山家のようなことを言っていた。
参加と書いたが、勝手に参加できるわけじゃなく、すでにコンペに入った時点で、映画祭サイドにセレクションされている。「みんな落ちたら言わないから、わからないけど、入っただけでもすごいんだよ」という旨をかつて北野武が言っていたが、それはそのとおり。今年も下馬評では名前が上がっていたものの、コンペから漏れた大物の映画がいくつかあった。
昨年、『それから』がコンペ入りし、コンペ外でも『クレアのカメラ』が上映されたカンヌの常連であるホン・サンスも、今年撮った新作が入らなかったことを認めている。潔すぎ。まあ、蓋を開けたら「あれれ?」という作品が入っていることもあるが、映画祭サイドが未完成のものを観て判断してしまうこともあるようだ。
では、コンペ作品は演出や演技、技術面など、どれも一級の作品が肩を並べているということを大前提として、何が受賞作とそれ以外を分けるのか。重要な決め手となるのは、主に3つ。競合作品は何か。審査員は誰か。そしておそらく一番大切なのが、今が反映されているか、だと思う。
今年は『万引き家族』を含めて、コンペ作品は21本。
中でもプレスや関係者の間で評価が高かったのは、『万引き家族』に加え、グランプリを受賞したスパイク・リー(米国)の『ブラッククランズマン』(白人至上主義集団KKKに潜入捜査をした黒人刑事の実話/以下原題または英題)、監督賞を受賞したパヴェウ・パブリコフスキ(ポーランド)の『コールド・ウォー』(冷戦中の破滅的な恋をモノクロで見せる)、特別パルムドールを受賞したフランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの『イメージ・ブック』(全編過去の映画、ニュース映像のモンタージュで、現代アラブ社会と西洋社会について考える)、キリル・セレブレンニコフ(ロシア)の『レト』(伝説のロッカー、ヴィクトル・ツォイの若き日を描く)、イ・チャンドン(韓国)の『バーニング』(村上春樹の短編「納屋を焼く」をユ・アイン、スティーヴン・ユァンで映画化)などなど。
なんだか、どれもすごそうでしょう? でもでも、ロシア版『ベルベット・ゴールドマイン』の趣もあって私の大好きだった『レト』、そして特に批評家の絶賛を浴びていた『バーニング』は無冠に終わってしまったのだ。
さて長くなったので、続きは次回に。
石津文子の
カンヌ追っかけ日記2018
2018.07.08(日)
文・撮影=石津文子
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