マーティンボロのワイナリーを
自転車に乗ってめぐる

周囲から「正気?」と言われながらも酪農家からぶどう農家へ転身。みごと世界的なワイナリーに成長した「アタ・ランギ」。

 今は20を超すワイナリーを数えるマーティンボロだが、そのはじまりは意外と最近で、1980年のこと。

 当時、ビール愛好者が多かったこの土地に、ワイナリー「アタ・ランギ」(マオリの言葉で“新しいはじまり”、“夜明けの空”の意味)の創始者クライヴ・パトンとその家族は「世界クラスのワインを作る!」と一念発起。酪農牧場を売り払い、ぶどう畑に変えてしまった。

ニュージーランドで1位の評価を得たこともある、マーティンボロの楠田ワイン。この地に移住した日本人、楠田浩之氏がブドウ栽培から醸造までを手がけている。

 降雨量が少なく、風が強く、冷たい海に面している北島の南端マーティンボロは、地質もぶどう作りに向いていた(1979年、国立土壌局の地質調査で、国内最適という結果が)。最初に植えた苗木には、ひょんなことから手に入れた、ロマネ・コンティの畑から密輸された苗木のクローンもあったとか。

 やがて、瞬く間にマーティンボロのシグネチャーワインのピノ・ノワールは、数々の賞に輝くようになり、アタ・ランギは国際的な評価を獲得。2010年にはニュージーランドにおけるグランクリュに選ばれるほどに。

 ワイン評論家のロバート・パーカーいわく、「ワインメーカーに“ニュージーランドで最も偉大なワインプロデューサーは?”と聞くと、決まって一人の名前が出てくる。クライヴ・パトンだ」と。そこまでの名声を手に入れながらも、創業当時からの家族経営は変わらない。

 今回は残念ながら、伝説のアタ・ランギは収穫を終えてクローズ中。それでも、数軒のワイナリーを訪問できた。ワイナリーめぐりにはガイド付きツアーに参加することもできるし、町で自転車をレンタルし、ビジターセンターで手に入れた地図をもとに自分で回ることもできる。

マーティンボロの町にあるリカーショップ。地元のワインが豊富に揃う。

2017.09.30(土)
文・撮影=古関千恵子