投入堂までの道のりは
生半可なものではなかった

木の根を伝いながら登ったのは、カズラ坂。

 しばらく進むと、さっそく最初の難所の、カズラ坂が待っていた。木の根を伝い、這い上がるようにして登らないと、前に進むことができない。

頭上に見えるのは文殊堂。そこにたどり着くまでは、ほぼ垂直の岩山を、鎖を伝って登らなければならない。

 続いて、急勾配を鎖だけを頼りに登る、クサリ坂。手を滑らせれば一気に転げ落ちてしまうから、冷や汗ものだ。登りはじめて間もないというのに、心の中ではもう弱音を吐いていた。すれ違う年配の人たちに、「がんばれ」と励まされる始末……。

文殊堂の縁側に座ると、はるかに大山が見える。たしかに絶景なのだが、安全柵も手すりもないので、高所恐怖症の人は楽しむ余裕などないかもしれない。

 落ちないようにと一心不乱に登ったところには、文殊堂がある。縁側から見える景色が素晴らしい。三徳山は、輪廻転生が体験できる道だとも言われている。「ここは苦行の末に拝める極楽浄土なのかもしれない」とさえ思うほどだ。あまりにも開放的すぎる立地に少々緊張しながらも、ほっと一息。

まだまだ続く、修行の道。岩肌の細い尾根をおっかなびっくり歩く。

 ところが、安心したのもつかの間、岩を乗り越えるような険しい道はまだまだ続いていた。もはや、眼下の景色を楽しむ余裕などない。

岩の間にすっぽりとはまった観音堂。ここで生まれ変わって(?)、いよいよ投入堂へ。

 地蔵堂や鐘楼、納経堂など、岩の上には次々とお堂が現れる。どれも岩の上に絶妙なバランスで立っていて、昔の人がどうやってこんな険しい場所に建てたのか、不思議でならない。

 やがて観音堂が見えてきた。建物の裏と岩の間は洞窟のようになっていて、参拝者はそこを通るしくみになっている。これは「胎内くぐり」を表現したもの。洞窟の中は暗く狭いが、そこを通ることで、生まれ変わった姿で投入堂を拝むことができるのだそう。

とうとう投入堂が見える位置に到着。ここまでの1時間は、ずいぶんと長く感じた。

 観音堂の裏の洞窟をくぐり、やっと目の前に投入堂が! といっても、断崖に寄り添うように立っているため、中に入ることはできず、近くから見上げることしかできない。

 投入堂という名は、「三佛寺の開祖が仏堂を手のひらに乗るほどに小さくし、かけ声とともにこの岩窟に投げ入れた」という伝説が由来となっているのだとか。ロケーションは奇抜だが、国宝にも指定されている。

 ときには1本の鎖を伝って岩肌を登り、ときには木の根をつかんで急斜面を這い上がり、やっと出会えた投入堂。これほど険しい道でありながら、1300年もの間、多くの人がここを訪れているのには、きっと揺るぎない理由があるのだろう。絶壁の窪みに凛と立つ投入堂を見たとき、その理由が分かる気がした。

三徳山三佛寺
所在地 鳥取県東伯郡三朝町三徳1010
電話番号 0858-43-2666
http://www.mitokusan.jp/

2017.05.30(火)
文・撮影=芹澤和美