世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、交替で登板します。
第158回は、鳥取が誇るあの驚愕の国宝を芹澤和美さんが訪ねます!
断崖絶壁に立つお堂まで
必死の登山を決行
体力があるうちに絶対に行ってみたい! と思っていた場所がある。それは鳥取県の三徳山(みとくさん)の断崖絶壁に立つ投入堂(なげいれどう)。奇抜なところに立っているが、どうやって建てられたのかは謎に包まれている。
写真家の土門拳も、「わたしは日本第一の建築は? と問われたら、三佛寺投入堂をあげるに躊躇しないであろう」とたたえたその建物をこの目で確かめるべく、1泊2日の旅に出た。
投入堂が立つのは、三徳山の標高約900メートルにある山岳寺院、三佛寺(さんぶつじ)の中。山の斜面を利用した境内にはいくつかのお堂があり、投入堂は奥の院にあたる。つまり、投入堂に辿り着くには、三徳山を登らなければならないということだ。
右:入山届に名前を記入し、「六根清浄」と書かれた輪袈裟を身につけて、いざ、山へ。
約1300年前に開山した三徳山は今なお信仰を集める修行の場。参拝者は輪袈裟(わげさ)を身に着け、修行者として山を登る。
岩をよじ登るような場所が多いため、参拝登山希望者は、入山の際、安全のため靴のチェックを受ける。登山道の足元は悪く、スニーカーでは入山許可が下りないこともあるという。金具の付いていない登山用シューズがベストと事前に調べておいたので、足元の準備も万端だ。
山門をくぐり、三途の川を模した小川に架かる宿入橋(しくいりばし)を渡って投入堂をめざす。ここからの距離は約700メートルとけっして長くはないのだが、修行の場だけにそうとう厳しい登山が予想される。
珍しいもの見たさでここまで来てしまったが、ふと、参拝受付の案内板に記されていた「近年、観光気分、観光装備による滑落事故が多発しています。厳しい修行の道であることを覚悟の上、受付ください」という心得を思い出し、および腰になってしまった。ここから先は気を引き締めて登らなければ。
2017.05.30(火)
文・撮影=芹澤和美