どのジャンルにも属さないオリジナリティ

山口 The ピーズ懐かしいですね。カステラも好きでした。

伊藤 ヤングは知らない双子ですね(笑)。The ピーズの「バカになったのに」を初めて聴いた時の感覚っていうのは、今の中高生も同じなんじゃないかな。難しい言葉じゃなくて、でも自分たちでは言い表せない感情を歌っている。不器用でもあるんだけど、なんだか哲学的でもある。ダサいのを通り越したカッコよさみたいなもの感じさせる。カップリングも全曲それぞれの刺激があって、充実したアルバムを聴いている感じ!

山口 シングルなのに、リード曲名とは別のアルバムタイトルが付いているんですね? このパターンは記憶にないな。

伊藤 ですよね。リード曲も随分と皮肉のこもったタイトルなんだけど、カップリングのタイトルは「最愛の果て」「悪口たち」「卒業」と昭和のにおいがプンプンする。楽曲もどこかフォークソングへのリスペクトを感じるんだけど、「時代をあつめて」というアルバムみたいについたタイトルこそが、このCD全体にこめた“現代の大人たち”への皮肉なんでしょうね。まぁ、バンド名もそうなんですけど“逆に新しい”ってことですよ!

山口 日本語ロックの系譜はきちんと受け継いでいるけれど、2010年代後半らしさもちゃんとあるということなのでしょうね。

伊藤 ロックとフォーク、ヒップホップ、パンク、Jポップと、いろんなものを吸収しながらも、どれにも属さないようなオリジナリティを持ってる。その中心にあるのが歌詞で、笑えるほど才能があって大胆で子供じみていて、本当に面白い。ただ、彼らに可能性を感じてメジャーデビューさせたメーカーの最大の課題は“売る”こと。単純にCDの枚数だけの話ではなくて、彼らが多くのオーディエンスの前で歌い続けることのできる環境を作れるか?

山口 売れて欲しいですね。前述のThe ピーズは、ブレイクできなかった。ヴォーカルの大木温之くんの双子の兄弟で、カステラというバンドのヴォーカルだった大木知之くんは、TOMOVSKYで一定の成功は収めたけれど。こういうバンドが今の時代に売れてくれると良いなと思います。さて、妄想分析は?

伊藤 あぁ、マジで10年前に戻りてぇ。頭ん中だけは今のステイタスとスペックで、身体も歴史もそのまんまの10年前に。

 そうすれば、醜い喧嘩で親友と絶交しなくて済むし、憧れの女子と15歳までに脱童貞だ。あの時のイジメも見て見ぬふりなんかしないで、生徒会にも立候補、あと格闘技のひとつも習っておこう。きっと親ともテキトーに笑って付き合える。そうだ、高校からアメリカ留学にも行かせてもらおう。すぐにプログラミングとか始めれば日本のザッカーバーグになれるかもしれないし、バンドを始めればゲスキワにもなれる。いつだって時代を先取りして、イケてて、金もあるしモテモテ。今の自分の歳になった時にはテイラー・スウィフトあたりと結婚して、世界のセレブリティの仲間入り。

 とかいってもタイムリープとかぜってー起きないし……。10年間引きこもった暗く湿ったこの部屋で、左手首にカッターナイフを何度も何度も滑らせて、今日も起きない“その時”に気持ちを高ぶらせている。

山口 今回の妄想分析は若い! My Hair is Badに触発されましたね。

My Hair is Bad「時代をあつめて」
EMI Records/ユニバーサル ミュージック 2016年5月11日発売
1,200円(税抜)
■My Hair is Badは、ギターとヴォーカルの椎木知仁、ベースとコーラスの山本大樹、ドラムスの山田淳による新潟県上越市出身のトリオ。「時代をあつめて」はシングル総体のタイトルで、同名の楽曲は収録されていない。本作のリリースに合わせ、タワーレコード限定商品として、メジャーデビュー記念Tシャツが発売される。
■「戦争を知らない大人たち」作詞・作曲/椎木知仁
■オフィシャルサイトURL http://www.myhairisbad.com/home/

2016.04.29(金)
文=山口哲一、伊藤涼