「あの人、地頭は悪いよね」など、最近耳にすることが多い「地頭」。

 東大生教育集団カルペ・ディエム代表の西岡壱誠が上梓した『地頭力の正体』では、情報だけを覚える「静的知識」ではなく、それを応用・使いこなすことができる「動的知識」に変換することが、「地頭力」の決定的な分かれ目になると論じられている。

 地頭の良さを決定づける「動的知識」とは、一体何なのか。そのヒントは、東京大学の入試問題にあるという。『地頭力の正体』から一部抜粋してお届けする。

» 【後篇を読む】「地頭の良い子を育てるには」外に出るだけでも効果アリ?我が子の地頭を良くするための学習方法とは《地頭力の正体》


東大受験生がやっている「知識を動かす訓練」

 さて、話を東大に戻しましょう。結論から言うと、僕は東大生の優れているところは、この「動的知識」を使いこなせるということだと思います。

 決して、クイズ番組で答えが出せるというところに「すごさ」があるわけではないと思うのです。

 東大入試という「地頭を問う」入試形式は、そっくりそのまま動的知識の有無を測る試験だと言えます。

 たとえば、東京大学の世界史の入試問題が一番わかりやすいので参照させてください。

第1問
ローマ帝国の覇権下におかれていた古代地中海世界は、諸民族の大移動を契機として、大きな社会的変動を経験した。その際、新しく軍事的覇権を手にした征服者と被征服者との間、あるいは生き延びたローマ帝国と周辺勢力との間には、宗教をめぐるさまざまな葛藤が生じ、それが政権の交替や特定地域の帰属関係の変動につながることもあった。それらの摩擦を経ながら、かつてローマの覇権のもとに統合されていた地中海世界には現在にもその刻印を色濃く残す、3つの文化圏が並存するようになっていった。
以上のことを踏まえ、5世紀から9世紀にかけての地中海世界において3つの文化圏が成立していった過程を、宗教の問題に着目しながら、次の7つの語句をそれぞれ必ず一度は用い、600字以内で記述しなさい。
ギリシア語 聖像画(イコン) グレゴリウス1世 クローヴィス ジズヤ バルカン半島 マワーリー
〈2006年 東京大学世界史入試問題より抜粋。一部改変〉

 このように、一定のキーワードが与えられた上で、特定のテーマについて論じなさい、という形式の問題がほぼ毎年出題されています。

 キーワードを単に羅列するだけでは不十分で、それぞれの言葉の意味を正確に理解し、相互の関係性を説明し、歴史的な流れの中で位置づけながら、1つの論理的なストーリーとして組み立てなければなりません。

 それも、7つのバラバラのキーワードの使い方を悩まなければならないのが難しいポイントです。

 「グレゴリウス1世はこんな人物だった」というのがいくら頭の中に入っていたところで、この問題は解けません。

 「グレゴリウス1世ってこの文脈だとどう使うんだ?」「宗教と関連させるから、西ヨーロッパのカトリック文化圏の確立に関わる人物という扱いで書けばいいのかな?」というように、キーワードを膨らませて考えていく必要があります。

 こうした「どう関係する?」という問いに答えながら、1つの知識を縦横無尽に「動かして」いく。これが東大入試で求められる力です。

 そしてその問題に対応するために、東大受験生は、知識を「動かす」訓練を徹底的に積んでいます。だからこそ、東大生の頭の中の知識は「動的」になっていくのです。

 わかりやすいので世界史で説明しましたが、他の科目も同様です。

 数学では、公式を単に暗記するのではなく、「なぜその公式が成り立つのか?」を証明したり、その公式を応用して見たこともない新しい問題を解く力が求められます。

 英語では、1つの単語や文法を知っているだけでは不十分で、1つの英単語と関連付けられる英単語にどのような種類があるかを、「類義語」や「反対語」といった括りではなく広く理解することが求められます。

 つまり、東大入試のすべての科目が、「静的知識」ではなく「動的知識」を問う設計になっているのです。

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