静寂の違和感と曖昧な噂
足を踏み入れたのはガラス張りの式場ロビー。
そこは、中央にある大きなシャンデリアが印象的な広々とした吹き抜け構造で、外から入ろうとしたときに鍵が閉まっていた場所でした。
その中央には金色の刺繍が施された赤いビロード地の大階段と、そこから続くU字型の上階がありました。
「あの上が大広間とかメインの式場かな……」
カシャン!
背後で響いた金属音。驚いたIさんが振り向くと、友人の女の子が金属製のラックに足をぶつけたところでした。
「ご、ごめん!」
「気をつけてね。というか……静かすぎるな、ここは」
「言葉にはできないんだけど、普通の廃墟と違う気持ち悪さがあるよな」
「……あ、わかった。落書きがないんだ、ここ」
言われてみると、こんなに広くて荒らし甲斐があるにも関わらず、ロビーには落書きやゴミがひとつもありませんでした。
「俺たちが入ってきた控え室が一番荒らされてないか? 普通はひらけたところが一番荒らされそうなもんだけど……」
何が起こるのかはわからないが、とにかく長い間はいられないくらい怖い――そんな曖昧すぎる噂の正体と荒らされた形跡のない理由は一体なんなのだろう……。
答えの出ない疑問が心の中に波紋のように広がっていくうちに、誰が言い始めるでもなく散り散りに周囲を探索し始めたのだそうです。
