ガザで子どもが標的にされる今、作品を送り出す意義

――2022年以降のロシアによるウクライナ侵攻や、パレスチナ・ガザ地区での虐殺など、世界中で理不尽に日常を奪われる子どもたちの姿が報じられています。この時代に『わたしの知らない子どもたち』という作品を世に送り出す意義をどう捉えていますか。

 実はこの企画を立ち上げた2020年の段階では、まさかその後の世界で、各地でこれほど多くの武力衝突が起き、民間人や子どもたちが日常的に虐殺されるような事態になるとは夢にも思っていませんでした。

 人類はこれまで膨大な戦争の反省を描き、歴史から学んできたはずなのに、いとも簡単に国際秩序が崩壊し、子どもたちが標的にされている現実に、愕然とします。

 このタイミングに合わせて映画を作ったわけではありませんが、日本では戦争の記憶を直接語ってくれる体験者がいなくなりつつある今、この作品を形にして世に送り出せたことには、深い巡り合わせを感じています。

 直接の体験を持たない私のような世代、そしてさらに若い世代の作り手が、自分たちなりのアプローチで過去の歴史を描き継いでいけるんだという、ひとつの足がかりになればという思いもあります。

――映画を通じて、観客や次の世代にはどのようなことを期待しますか。

 映画を観て「戦争はいやなものだな」「いまの自分は食べ物にも困らず、親もいて平和で幸せだな」と感じてくれもらうことがまず第一。でもそこで終わってしまうと、再び大きな危機の波が社会を襲ったとき、恐怖で身体が固まったまま同調圧力に呑み込まれてしまうかもしれない、とも感じます。

 「では、この平和を維持するために、自分たちはいったい何をすべきなのか」「ずっと『戦後』であり続けるためには、どう振る舞うべきなのか」と問いを深めていくことが、次のステップなのだと思います。

 私にもなかなか答えは出ないし、その先は本作で暗示できてもいません。「1本の映画を観たからといって、人間が急に立派になったり社会が劇的に良くなったりするわけではない」ということも、たくさん映画を観てきた私もよく分かっています。

 ただ、子どもの頃にどんな文化や物語に触れるかは、その人の一生の視座を形づくる上で決定的に重要だと思うんです。だからこそ、大人たちが積極的に働きかけながら、若い世代へと作品が広がっていってほしいですね。

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西川美和(にしかわ・みわ)

1974年広島県生まれ。2002年『蛇イチゴ』で長編監督デビュー後、『ゆれる』『ディア・ドクター』『永い言い訳』『すばらしき世界』を発表。映画監督としての活動とともに、文筆家として、小説『ゆれる』『きのうの神様』『その日東京駅五時二十五分発』『永い言い訳』、エッセイに『映画にまつわるxについて』『遠きにありて』『スクリーンが待っている』『ハコウマに乗って』などの著書がある。

●映画『わたしの知らない子どもたち』

1945年、終戦。音楽家の父のもとで育ち、音楽を愛し、ごく普通の暮らしを送っていた12歳の少女・茅野琴子。しかし、戦争によって家も家族も失い、焼け野原となった東京で、たったひとり生きることになった。少女であることが生きることの危険につながる現実を知った琴子は、自らの身を守るため、少女という性を隠し、少年として生きることを決意する。一方、かつて琴子が疎開していた学校の教師・曽根は、戦時中は軍国主義教育に加担した側だったが、敗戦により信念も立場も失い、過去の責任と向き合いながら生きることを余儀なくされる。

出演者
小八重葵美 二階堂ふみ
坂東龍汰 櫻井海音 花瀬琴音
羽山由一郎 小林丞之介 岩田龍門 渋谷そらじ 武内ひなた
北村有起哉 吉田 羊 竹野内 豊
岡田准一/田中裕子 役所広司

原案・脚本・監督:⻄川美和
⾳楽:原摩利彦
撮影:笠松則通 照明:宗賢次郎 ⾳響:⽩取貢 特機:上野隆治 美術:三ツ松けいこ 装飾:須坂⽂昭
⾐裳デザイン:⼩川久美⼦ ⾐裳:岩﨑⽂男
ヘアメイクデザイン:酒井夢⽉ スクリプター:⽥⼝良⼦ 編集:菊池智美 ⾳響効果:北⽥雅也
キャスティング:⽥端利江、⼭下葉⼦
助監督:中⾥洋⼀ 制作担当:⼭内遊 VFXスーパーバイザー:上⽥倫⼈、髙橋正紀
⾳楽プロデューサー:杉⽥寿宏 ラインプロデューサー:横井義⼈
製作:紀伊宗之 プロデューサー:⼩出⼤樹、伊藤太⼀
製作・配給  K2 Pictures
共同製作  AOI Pro.
企画  分福
制作プロダクション AOI Pro.
10月16日(金)全国公開
©2026 K2 Pictures・AOI Pro.
https://k2pic.com/film/wsk
公式X @wsk_movie
公式インスタグラム @wsk_movie

●原案小説『わたしの知らない子どもたち』

戦争ですべてを失い孤児となった12歳の私は、生きるために、自分を偽ることを選んだ――。10月16日公開となる新作映画の原案小説にして、映画では語りえなかった、いくつもの物語が、情景が、心象が……「生きる」ことにどこまでも真摯なその姿が、胸にのこって離れない、戦渦を生きたひとたちが奏でる圧倒的長篇。

定価 2,200円(税込)
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