一番語りたい部分は「え、好き。」である
この⑨規範的な日本語からの逸脱という手法は、近年のオタク界隈の「推ししか勝たん」や「てぇてぇ(=「尊い」の崩壊形)」に近いものと思われる。M!LKの別の曲『爆裂愛してる』でも、もともと「爆発して破裂すること」を表すサ変名詞「爆裂」が、程度表現として副詞っぽく使われているという点で「逸脱」していると言える。
他にも言いたいことはたくさんあるが、『好きすぎて滅!』の歌詞で一番語りたい部分は「え、好き。」である。私はこの「え」と「好き」の組み合わせに、たいへん感銘を受けている。以下は私の現時点での分析であり、おそらく異論も多々あるだろうが、少々お付き合いいただきたい。
まず大前提として踏まえておきたいのは、「え」という感動詞は「驚き」、つまり目の前で起こったことに対する瞬時の反応を表すということだ。よって、「え」と一緒に出てくる表現も、五感を通して瞬間的に湧き上がる感覚や感情を表すものになりやすい。たとえば、誰かと出会ってその可愛さや格好良さに驚くことは瞬時に起こりうるので、「え、かわいい」「え、かっこいい」などと言うのに違和感はない。
これに対し、「好き」というのはどちらかというと、「かわいい」「かっこいい」のような感覚を統合した上で出てくる「結論」だ。つまり「好き」は、「なぜ私はこの人のことをかわいい(/かっこいい)と感じたのか」という思索や推測の先にあり、通常はその結論にたどり着くまでに多少の時間を要する。
こういった点で、「好き」は本来「え」の即時性とは相性が良くないが、この歌詞ではあえてこの二つを組み合わせることによって、「出会いの衝撃」から「好き」という結論にたどり着くまでの「尋常でない速さ」を表すことに成功しているように思う。私の知るかぎり、他に類を見ない⑩「好き」を自覚するスピード感の表現である。
『好きすぎて滅!』は、このように多様な「好き」の表現を盛り込む一方で、好きな相手を責めたり独占したりするような内容がないのも興味深い(独り占めしたいのはあくまで「カメラロール」であって、本人ではない)。相手にはけっして多くを求めないし、こちらから何もかも差し出したいと申し出るときも、あくまで「相手の方がお喜びになるなら」という条件付きである。押しつけがましさがまったくない。「好き」の度合いは限りなく大きいが、相手に迷惑をかけずに自分の中だけで完結させるところに清々しさを感じる。このへんを踏まえた上で、ねっとりした重めのラブソングと聴き比べてみると面白そうだ。
[注1]右京大夫政元【歴史系YouTuber】「歴史替え歌|室すぎて町!【好きすぎて滅!|M!LK】」、2026年3月21日。https://www.youtube.com/watch?v=i53BEgy9IUU
川添愛(かわぞえ・あい)
言語学者、作家。九州大学文学部、同大学院ほかで理論言語学を専攻し博士号を取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。著書に、『白と黒のとびら』『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』『ふだん使いの言語学』『言語学バーリ・トゥード』『世にもあいまいなことばの秘密』『日本語界隈』(ふかわりょうとの共著)『「わかってもらう」ということ 他人と、そして自分とうまくやっていくための言葉の使い方』『パンチラインの言語学』『裏の裏は表じゃない』など多数。
文=川添 愛 イラスト=Akimi Kawakami
