2026年を代表する一曲と言っても過言ではない、M!LKの爆裂ヒット曲『好きすぎて滅!』。歌詞を丹念に読み解くと、様々な手法で「好き」を伝える珠玉のラブソングであることが判明! 特に、サビ前の「え、好き。」に込められた他に類を見ない「好き」の表現とは……?

 気鋭の言語学者・川添愛さんが日常に飛び交う会話を様々な角度から分析し、「言葉のセンス」を探求する言語学エッセイ連載第10回です!

 遅ればせながら、M!LKの楽曲『好きすぎて滅!』に衝撃を受けている。私はあまりテレビを見ない上にアイドル界隈に疎いため、最近まで「なんか、みんなやたら滅! 滅!って言ってる」としか思っていなかった。つい先日、歴史系YouVtuberの右京大夫政元さんが室町幕府のカオスっぷりを歌った替え歌『室すぎて町!』[1]を視聴して爆笑し、それがきっかけで原曲をきちんと聴いた(ちなみに私と同じルートで本家のMVを見に行った人は一定数いるようで、「室町新規」なる呼び名もあるようだ)。楽曲やMVのクオリティもさることながら、「好きであること」の表現の多様さに驚いている。

 誰かが誰かを好きになり、歌や詩の中でその思いの丈を言葉にするということは太古の昔から行われており、その手法も多岐にわたる。パッと思いつくだけでも、①「とても」「すごく」のように「程度の大きさ」を表す言葉の多用、②永遠の愛の誓約、③「愛しているのはあなただけである」という唯一性の表明、④自己犠牲や献身の申し出、⑤胸の高鳴りを表すオノマトペ(擬音語・擬態語)の利用、⑥相手の素晴らしさ・自身の愛の大きさを表す比喩の使用、⑦「好き」「愛してる」といった言葉の連呼、⑧相手の神格化といった手法が挙げられる。

 それぞれに対して具体例を挙げたいが、とくに歌謡曲については歌詞を直接書きすぎるといろいろアレなので、みなさんそれぞれでお好きな例を思い浮かべていただきたい。一応、私が念頭に置いていたものについては、「①広末が歌ってた」「①②スターにしきのによるヒット曲」「③少年隊の指パッチンから始まるやつ」「④ちびまる子ちゃんがおじいちゃんを感動させた昭和歌謡」「⑤YMOがPVで気だるく踊る」「②⑥松崎しげるの名曲」「⑦一休さん」「⑧ダンテ・アリギエーリ」のようにヒントを出しておく。

 上記の表現方法の多くは『好きすぎて滅!』にも盛り込まれている。たとえば①に関しては、すでにタイトルに過剰さを表す「~すぎて」があるし、曲中では「マジ」や「過去イチ」といった語が使われている。「マジ」「過去イチ」はいずれも略語であり、「早く言いたい」という焦りが効果的に表現されているように思う。そしてこの流れで言うと、やはり「滅!」が注目に値する。過去の楽曲や文学作品でも「死ぬほど」とか「身を焦がすほど」のように、愛の大きさが危険領域に達していることを表すフレーズは使われてきたが、「滅!」の簡潔さは群を抜いている。

 さらに言えば、そもそも「滅」が単独で現れる例はスタンダードな日本語には存在しないし、「好きすぎて滅!」というフレーズを見てもいったいどういう文法にのっとっているのかが判然としない。おそらくこれは「"好き"が高じて語彙や文法が崩壊する」という表現方法なのだと思う。

次のページ 一番語りたい部分は「え、好き。」である