大分県豊後大野市。全国名水百選にも選ばれる白山川の上流には、水中洞窟としては日本最長とされる「稲積水中鍾乳洞」がある。世界的にも珍しい「水没した鍾乳洞」として、地質学的・観光的の両面から高い注目を集めている。


自然がもたらした美しい水中洞窟

 大分市中心部から車で約1時間の場所にある稲積水中鍾乳洞。足を踏み入れ、舗装された道を進むと、水深の深い洞窟が見えてくる。澄み切った地下水を見下ろすと、数多の鍾乳石が水中で林立する、神秘的な空間が広がる。

 太陽の光が届かず外の気温変化を受けないため、洞内温度は一年を通じて約16度。冷房によるきんとした人工的な冷たさではない、自然で程よい冷気が広がる洞内は、酷暑で火照った身体を優しくクールダウンさせてくれる。

 稲積水中鍾乳洞の歴史は、約3億年前にまでさかのぼる。この時代に、母体となる洞窟の原形が形成されたと考えられている。空気中や土壌の中の二酸化炭素がとけこんだ酸性の雨水が、何十万年、何百万年と気の遠くなるような長い年月をかけて、じわじわと石灰岩を溶かし、洞窟をつくり出す。

 このとき、石灰岩から溶けた炭酸カルシウムが再び結晶化したものが鍾乳石だ。大気にさらされていないと生まれない鍾乳石が、なぜ稲積水中鍾乳洞では水中に存在するのだろうか。

 決定的な変化をもたらしたのが、熊本県・阿蘇山の火山活動だ。阿蘇山では30万年前以降に断続的な大噴火が記録されており、およそ9万年前の大噴火が、現在の稲積水中鍾乳洞の姿を決定づけた。

 噴出した溶岩流は周辺の谷間を埋め尽くし、近隣の白山川上流部をせき止める形で水位を急上昇させ、それまで空気中にあった鍾乳洞は、この噴火を契機として水没。以来、稲積水中鍾乳洞の大半は水中に沈んだままとなっている。災害大国・日本は絶えず厳しい災いを被ってきたが、温泉や豊かな土壌などの自然の恵み、そして稲積水中鍾乳洞のような奇跡をもたらした。

 一般見学を可能にするために水位の低下作業を行い、さらに水中鍾乳洞や空洞の間を人口トンネルでつないだ。洞内全長は約1キロメートルに及び、そのほとんどが歩道として整備されているため、車椅子やペットカートでの見学も可能となっている。

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