映画を観た人の反応から“大変さ”が伝わってくる
――大ヒットしたぶん、藤野監督のもとにもさまざまな反応が寄せられたのではないかと思います。なかには当事者やその家族もいたのではないでしょうか?
サイン会などで直接お話しさせてもらうと、当事者やその家族の方が3割、福祉関係の方が2割、残りが直接の関わりはない方という印象です。統合失調症に限らず、いろいろな精神疾患の診断を受けられている方も結構来られていました。もちろんサイン会なので、思い入れが強い方が特に集中しているのだとは思いますが。娯楽映画の枠でやっている以上、怖いもの見たさで来ている人もいるとは思いますが、それでも観終わったあとに何か残るようなものになっているのではないかなと思っています。
――当事者やその家族の方からの声で、印象に残っているものはありますか?
すぐに感想が出るという感じではない人が多かったですが、反応からその大変さが伝わってくるんですよね。あるサイン会で70代くらいの男性が来られて、感想を伺ったら少し時間を置いて、ボソッと「30年」とだけ言ったんです。お隣にいた連れ合いと思しき女性が言うには「(家族は)30年間、医療につながっていない状態だ」と。ご両親は役所にも相談して尽力しているけれど、本人が治療を拒んでいるそうなんです。そのお父さんと思しき方の「30年」という言葉はすごく印象に残っています。
――たしかに調べてみると、当事者の方が医療を拒否されるというパターンも多いそうですね。
病気の特性として、当人に病識がなく、判断力にも変化が生じてしまうことがありますから。
精神科医から寄せられた衝撃の感想
――なかには藤野監督のお父さんを肯定するような反応もあったとか。
高齢の精神科医の方から、「当時の病院に自分の子どもを入院させることを拒んだ両親の判断は適切だった」という反応が寄せられました。その方は1980年代の精神科病院の状況を知っていて、その問題を改善しようと活動していたそうです。アメリカの論文には入院するより自宅で療養した方が改善したというものがあるというようなことを仰っていて、「お父さんに『あなたは正しかった』と伝えてくれ」と言われました。
僕自身、映画の中で父に「姉を入院させなかったのは病院で虐待される可能性があるからか」と質問しているんです。そういうケースもあるとは考えていたし、今ほど有効な向精神薬もなかった。だから入院を拒んだのかもしれないという可能性は考慮していましたが、精神科医の方から「両親の判断は正しかった」と言われたのは衝撃でした。
――公開後、さまざまな反響を受けて藤野監督の考えには変化がありましたか?
公開する前は自分、つまり子どもの視点が強くて親を肯定するつもりはまったくなかったんですが、公開後にいろんな意見があがってくると「たしかにそうかも」といろいろな視点で考えるようになりました。もちろん姉の治療を拒むべきではなかったという考えには変わりありませんが、理解が広がったことで父や母が考えていたことにようやく追いついてきた気はします。
