統合失調症の症状が現れた姉。病気を認めず、南京錠をかけて姉を家に閉じ込めた医師で研究者の両親。そして20年にわたって自身の家族にカメラを向け続けた弟。ドキュメンタリー映画『どうすればよかったか?』は、2024年の公開と同時に大きな反響を呼び、異例の大ヒットを記録しました。

 今年1月に刊行された藤野知明さんによる同名の書籍『どうすればよかったか?』も発売前から予約が殺到し、発売から約1カ月で5回重版がかかるなど、今年注目のノンフィクション作品として話題を集めています。

 本作について「個人的にも心に残っている作品」と語る映画ライター・ISOさんが、書籍を刊行した藤野さんの心の内をたっぷりとお聞きします。


「家族の物語」として打ち出したら、身近な物語として観てもらえた

――書籍には映画の内容が補完される部分もあれば、映画では語られなかった新たな衝撃もあり、非常に読み応えがありました。

 やはり書籍として出す以上は、それだけで完結するようにしなければいけないとは考えていました。そして映画で語れなかったことを書くことに意味がある、とも。映画を公開する前は緊張で寝ているときに口の中を噛んで傷だらけになっていたんですが、今回書籍が出るにあたってまたしても緊張で傷だらけになりました(笑)。

――映画『どうすればよかったか?』が公開される前は「どう受け止められるかわからない」と吐露されていましたよね。それがいざ封切りされると、興行収入2億3000万円超え(2025年12月時点)というドキュメンタリーとしては異例の大ヒットを果たしました。自身の家族を描いたパーソナルな本作がそれほど広く受け入れられた理由についてはどのように分析しているのでしょうか?

 配給会社である東風さんは、宣伝するにあたって「家族の物語」であると打ち出したんですが、制作中、僕は「家族」がキーワードだとは気づいていなかったんですよ。僕が本作で問いたかったのは、「なぜ両親は姉を医療につなげることを拒み続けたのか」と「南京錠をかけたことが姉にどういう影響を与えたのか」という2点だったので。

 インタビューで時々、“統合失調症を発症した姉の作品”と言われることがありますが、そもそも姉を中心に据えた作品ではありませんでした。両親と僕が姉の変化に対してどう対応したのか/しなかったのかというドキュメンタリーだと思ったので。最初に映画祭で上映したときから映画のチラシに家族の写真を使っているんですけど、家族を描こうという感覚は自分の中になかったんです。ただ宣伝において家族を中心に据えたことで、家族についての作品だと受け取られると気づいたし、結果的に多くの人にとって身近な物語として観てもらえたのではないかなと考えています。

――家族の写真、というのは書籍のカバーにも使われているものですね。お父さんの還暦を祝うほのぼのした写真だと思っていたら、藤野監督は「問題に向き合わない家族に抵抗する」という意思表示のために下を向いていたと。

 だからこの時期の写真は大体目を瞑っているんですよ。そういう意味でも家の状況をよく表している写真であったというのがチラシに選んだ理由のひとつです。

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