効率だけじゃない、「好き」が伝わる棚

 レジ前のフェア棚は、退勤ラッシュ時にはレジに行列ができるため、ぱっと見、目につく選書を心がけているという。取材時には、インパクトあるタイトルのインド旅行エッセイを旅本フェアのメインに展開していた。

 フェア棚では、出版社やジャンルを超えて組み合わせを工夫している。新書のフェアで『女は男のどこを見ているのか』(ちくま新書)と、『女は男の指を見る』(新潮新書)を並べるアイディアは、売り上げスリップ(本にはさんである細長い伝票)を整理している中で、この本とこの本を並べたら面白いのではと、発見するという。

旅本のフェア。レジ前なので、目につくタイトルが◎。

 文芸書の棚もいい。新刊や話題書ばかりではないので、1冊、2冊しか在庫のないものもある。背表紙ばかりが並ぶとどうしても単調になりがちなところを、面陳(表紙を正面に向けて見せる並べ方)、棚差し(背表紙を正面に出す普通の陳列)、2冊差し、3冊差し(同じ本を2冊、3冊並べる陳列)を組み合わせてリズムを出している。スペース的にはやや贅沢だが、ふと目を止める効果がある。

 もうひとつの特徴は、ハードカバーをしっかり並べていることだ。村上春樹さんの初期の代表的な小説は、多くが文庫化されているが、初版発行から30年以上経ったデビュー作を含めてハードカバーでほとんど揃う。

 文庫化されたときにカバーデザインが変わって残念な本や、やはりハードカバーで長く持っていたい本は、ハードカバーでも揃えているという。取材では、ジャケ買い派の筆者と「この本は文庫よりハードカバーの装丁の方がよかったよね」と、ひとしきり盛り上がった。話題の最新刊のようには売れないけれど、同じ作家の新刊が出たときにオトナ買いしてくれるお客様もいて、そういうときには「ねばって置いておいてよかった」と思うのだそう。効率だけで本を並べるのではなく、「好き」が伝わる棚だ。

 話題書をしっかり売るアンテナと、ハードカバーをねばって売る美意識が、老舗書店の豊かな空間を支えている。今度、浦和駅近く、旧中山道沿いの本店にも行ってみよう。

文芸書の棚。リズムのある陳列が心地よい。
好きな本は、やっぱりハードカバーで手に入れたい。
栗原明子さん、『お風呂の愉しみ』とともに。

【CREA WEB読者にオススメ】
 そんな栗原さんのオススメは、お風呂グッズとお風呂ライフの本、前田京子さんの『お風呂の愉しみ』(飛鳥新社)。手作り石けんの材料のオーガニックなオリーブオイルがあまりにおいしそうだったので、たまらず買いに行ってしまったという、おいしい、美しい本。

須原屋武蔵浦和店
所在地 埼玉県さいたま市南区別所7-6-8-209
営業時間 10:00~22:00
URL http://www.suharaya.co.jp/information/?id=4

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.05.31(土)
文・撮影=小寺律