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 テレビドラマの舞台にもなり注目度が高まっている長崎の軍艦島こと、端島(はしま)。かつて、ピーク時には5,000人以上が暮らしたという海底炭坑の小さな島は、近代化を支えた歴史に加え、現在の退廃的な世界観が人気を集める。クルーズツアーで上陸してみた。


天候に恵まれ、いざ軍艦島へ

「おっ、見てきたよ」。そんな声とともに、大型船の後部デッキが席を立った乗客で混み合う。揺れのなかでバランスを保ちつつ、みんなスマートフォンやカメラを構えている。だんだんと近づいてそのディティールが見えてくると、なにやら不思議なオーラのようなものを感じる。これが軍艦島か……なかなかの迫力。さあ、上陸だ。

 軍艦島の呼び名で親しまれる端島(はしま)は、かつて海底炭坑で栄えた島で、2015年には世界文化遺産に登録されている。長崎港から船で南西へ40分ほどのところにあり、2009年から一般の上陸が可能に。ただし、個人での立ち入りは禁止されていて、上陸には地元5社が運航するクルーズツアーへの事前申し込みが必要となる。

 ツアーによって船のサイズや料金、ガイド内容などが異なるが、大人4,000円前後~、というのが相場のようだ。今回、筆者とカメラマンは、「やまさ海運」(長崎市)の大型船に乗り込んだ。

 このクルーズツアーは、必ず島へ上陸できるわけではない。天候や風、波などの安全基準が設けられていて、出航できたとしても上陸は船長の最終判断にゆだねられる。出航後に上陸できないと判断された場合には、周遊ツアーに切り替わり、見学料などが返金される。まず出航できるか、そして上陸できるかという二重の壁があるなか、この日は運よく突破。上陸可能とのアナウンスを聞いた乗客からは歓声が上がっていた。

 船が桟橋に停まり、乗客は列をなして島へ足を踏み入れていく。それにしても盛況だ。定員200人超の船は、若いカップルや家族連れ、外国人観光客で満席状態だった。神木隆之介主演のドラマ『海に眠るダイヤモンド』(TBSテレビ/2024年放送)で端島が舞台となった影響で今、ツアー客がぐっと増えているのだとか。

2025.03.26(水)
文=一ノ瀬 伸
写真=釜谷洋史