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 “楽聖”ベートーヴェンの苦悩の人生と、創作の真相に迫った舞台『No.9 ―不滅の旋律―』。「第九」初演から200年目の節目にあたる今年、4度目の上演が決まった。初演からベートーヴェンを演じる稲垣吾郎さんに、意気込みや稽古場でのエピソードを聞いた。


20代からの経験が難役を演じる上での糧に

――近年の稲垣さんが演じる役柄は屈折したキャラクターが多いとお見受けします。ミステリアスな稲垣さんのイメージもあいまって役どころがぴったりなのですが、ご自身はそういう難しい役を演じることについてどう思われますか?

 そう言っていただけるとすごく嬉しいんですけど、あまり難しく考えないようにしています。ただ、屈折したキャラクターへの挑戦は、やはりやりがいがありますよね。特に最近は映画やドラマでも、比較的社会的なテーマというか、考えさせられる重い作品が多かったです。

――世間から期待されるイメージとご自身にギャップを感じたりはしますか?

 ギャップはありますよ。そんなに複雑な人間じゃないのに、複雑な役が多かったりとか。それを稲垣吾郎に演じさせてみたいなと作り手が思うのは、僕も客観的に自分を見てわかります。「でも僕自身はとてもフラットで心も健康ですよ」と、今まではよくそう答えてきたんですけど……、本当は自分の中にもそういう部分があるんだと思います。僕、結構屈折してると思うんです(笑)。でもそれはことさら強調しなくてもいいことですから。

 ただ、正直に明かすと、難しい役を求められ、そして演じられるようになったのは、20代~30代ぐらいの頃の人生経験が大きいんだとは感じています。若い時は誰でもそういう気持ちがあると思うけど、迷いとか、悩み、本当はこうありたいのにこうするしかなかったといった葛藤が、今の稲垣吾郎を作っていると思う。だからこそ、こういう難しい役を演じられるようになったのかもしれませんね。能天気なだけの人物だったら、ベートーヴェンを演じるのは難しいと思うから。

――ベートーヴェンの苦悩の音楽人生と、稲垣さんの芸能生活の歩みはリンクする部分もありそうですね。

 そんなことを言うのはおこがましいけれど……。僕は、ベートーヴェンの人生でいえばやっと交響曲第6番が完成して流れ出したくらいのところにいると思います。

2024.12.06(金)
文=綿貫大介
写真=榎本麻美
ヘアメイク=金田順子
スタイリスト=黒澤彰乃