自分の居場所や個性を舞台に見出していた
――とてもカロリーが高い役ですが、エネルギーを保つために努力していることはありますか?
上演時間は3時間弱のお芝居の中で、僕が演じているベートーヴェンは出ずっぱりで、出てないシーンって10分くらいしかないんです。しかもだいたいずっと怒っている(笑)。普段の自分とはまったく違う役柄なので、演じていて自分で自分にまだびっくりするみたいなところはあります。お客さんが舞台を見に来てくれるのは非日常体験だと思うんですけど、僕らにとってもそうなんですよね。日常では味わえない体験を舞台の上でさせていただいています。
今回の役もそうですが、なにより舞台の仕事で大事なのは、日々の心と体の健康ですね。体力的な部分でいえば、声をしっかり出せるようにきちっとした生活を心がけて、あまり取り乱さないというか、ストレスフリーな状態を意識しています。
――毎回ニュートラルに戻しているんですね。
そうですね。ただ舞台も、演じることも、共演者と過ごすことも、根本的に大好きなことなので、役としては苦悩の表情をしながらもいつも公演期間は楽しい心で演じています。
――本当に幅広いお仕事をされていますが、実は舞台は10代の頃から経験されています。稲垣さんにとって舞台という仕事はどんな存在ですか?
本当に特別なものです。自分が俳優という仕事の魅力に気づけたのも、若い頃に舞台に出させてもらってから。ようやく自分の居場所を見つけられた気がしたんです。それは、グループにいたことも大きかったかもしれないですね。どうしても他のメンバーと自分を比べていたところはあったし、自分の居場所とか自分の個性とかを探していた時期もあったと思うから。そういう意味では自分を救って、支えとなっていたものでもあるので、出会えた意味は大きかったです。
――テレビと舞台では、観客に対しての届け方がまったく違いますよね。
舞台のほうがよりシンプルですよ。今、目の前の観客がどう思っているかとか、その場の空気みたいなものを感じ取れる力がつくから。これは映画やドラマでも同じだと僕は思っています。観客との距離が違うだけであって、エンターテイナーとしてはすごい大切なことなんですよね。
――舞台経験が、カメラを前にした演技にも生きていたんですね。
そうですね。映像の仕事をしていても、舞台をやっていてよかったなと思うことが多いです。自分の演技の基礎的な部分、セリフの言い回しや身体的表現などは、舞台をやってきたからこそ、客観的に俯瞰で自分を見られるのだと思います。
2024.12.06(金)
文=綿貫大介
写真=榎本麻美
ヘアメイク=金田順子
スタイリスト=黒澤彰乃