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僕が演じる芯はもう揺るぎない

――ベートーヴェン役は馴染んできましたか?

 ちょっと珍しいことですが、この作品の中での僕が演じる芯はもう揺るぎないものだと、自信を持って言えるぐらいには馴染んできました。もう自分はベートーヴェンだと信じて、迷いなく板の上で演じているので、経験を重ねた自負ももちろんあります。

 今稽古中なのですが、初日の本読みの段階でもう感覚を思い出しました。すぐに感覚が戻ってきつつも、単純に前回をなぞってしまうと面白くないので、新鮮さも大切に作っていきたいと思っています。これまで3回も演じていると、どうしても今までの経験と成功体験をなぞってしまいそうになるんですよね。それが大切なこともありますけど、でも一度全部破壊してからまた構築していく気持ちでやりたいという話は演出の白井晃さんもされていました。初めて観に来てくれた観客の方はもちろん、リピーターの方にも新鮮みを感じてもらいたいですから。新キャストを迎えての上演ということもあり、みんなで気持ちを新たに挑んでいるところです。

 今回も共演している大先輩の長谷川初範さんは、昼公演と夜公演でも全く違う人物のように、毎回新鮮に演じられるんです。演じるごとにリセットされてその人を生きているので、勉強になります。僕の舞台経験では、大竹しのぶさんも同じタイプの方だと感じました。

この芝居もベートーヴェンの世界の通過点

――舞台の時にルーティンにしていることはありますか?

 あまり早く劇場に入ってしまうとそわそわしてしまうので、きちんと家でウォーミングアップをして、気持ちも高めてから出るようにしています。これは本当は許されないことかもしれませんが、許されるなら本当は、劇場に着いたらパッと着替えてそのままノンストップで舞台に出ていけたら理想ですね。スタッフさんに迷惑かけるだけだからダメなんだけど(笑)。ただ白井さんも舞台に出ていたときは同じ気持ちだったと言っていました。舞台袖で待っていると緊張してしまうので。

――ご自宅で気をつけていることはありますか?

 声ですね。特に体を休ませて寝て起きた時は、びっくりするくらい声が出なくなっちゃうので。そこから2、3時間かけて声が出るようにしていきます。家の中でランニングマシーンで走ったり、ストレッチしたりしながら。

――ベートーヴェンの作品は苦悩の中で生み出された部分もあると思います。偉人の人生を客観的にみてどう思われますか?

 生前からウィーン音楽界の寵児ではありましたが、真価が広く認められるようになったのは没後。それが何百年と時を越えて今がある。そしてきっと何百年も何千年もまた後世の人たちに語り継がれていく音楽であって、僕らの芝居も、ベートーヴェンの歴史にとってはただの通過点ですから、その一員として参加できることが嬉しいです。

 でも、自分が同様の苦悩の人生を送れるかというと……正直言うと、楽しく生きたいよね。今パッと顔が浮かんだけれど、草彅剛さんみたいに(笑)。もちろん、彼にも彼なりの苦悩があるかもしれないけれどね。

2024.12.06(金)
文=綿貫大介
写真=榎本麻美
ヘアメイク=金田順子
スタイリスト=黒澤彰乃