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ヒットを予測していたのか

「まったく予想していなかったですね。もちろん、この映画をたくさんの人に見てもらいたいという気持ちはありましたが、ここまでの成功は予想していませんでした。なぜ1300万人もの観客を動員したのかについても、はっきりとはわかっていません。準備段階では、むしろ弱点の多い映画だとも思っていたんです。

 まず、お金がたくさんかかっていますし、内容的にも深刻で、観客から好まれる内容ではないと思っていました。その上、45年も前の話ですし、登場人物も、“おじさん”ばかり。この映画が若い世代や女性の観客に、何か訴えかけるものがあるのだろうかと、映画を作っているときは非常に悩んでいました」

 物語の核になる登場人物はふたり。大統領暗殺事件の合同捜査本部長に就任し、その混乱の最中で新たな独裁者の座を狙うチョン・ドゥグァン保安司令官をファン・ジョンミンが演じた。そして軍人としての信念に基づいてチョン・ドゥグァンの暴走を阻止しようとする首都警備司令官イ・テシンをチョン・ウソンが演じている。

 この二人というのは、キム・ソンス監督の『アシュラ』でも主要な人物を演じている。しかも、ファン・ジョンミン演じる悪徳市長と、彼に最後まで食ってかかる、チョン・ウソン演じる汚職警官という関係性は、『ソウルの春』にも重なるように感じる。キャスティングにはどのような意図や経緯があったのだろうか。

「まずチョン・ウソンさんとは、1997年の『ビート』という作品をはじめとして、長年一緒に映画を作ってきた信頼関係がありました。ファン・ジョンミンさんとは『アシュラ』で初めてご一緒したのですが、映画の撮影を通してすごく良い印象を持ちました。

 ファン・ジョンミンさんは今や、韓国を代表する俳優ですが、私に対する印象も悪くなかったんじゃないでしょうか。私の中でもお二人は特別な存在でしたので、この映画でも俳優として演じてもらいたいという気持ちがあったんです。この映画は、シナリオができた段階で私のところに持ち掛けられたものでした。

 その話を持ってきた会社の代表から、チョン・ドゥグァン保安司令官の役にファン・ジョンミンさんはどうかと相談がありまして、まずはジョンミンさんをキャスティングすることになりました。イ・テシンについても、さまざまな話し合いを経てウソンさんになりました」

 キム・ソンス監督は現在63歳。1995年イ・ビョンホン主演の『ラン・アウェイ-RUN AWAY-』で監督デビューし、1997年にはチョン・ウソンが主演の『ビート』、1999年には、チョン・ウソンとイ・ジョンジェという二人の主演作『太陽はない』を監督した。

 その後も、チョン・ウソンやチャン・ツィイー主演の時代アクション『MUSA -武士-』(2001年)、パンデミックの世の中を描いた『FLU 運命の36時間』(2013年)、そして『アシュラ』や本作に至るまで、コンスタントに映画を監督してきた。そんな監督の目に、昨今の韓国映画の変化はどのように映っているのだろうか。

2024.08.09(金)
文=西森路代