この記事の連載

結婚記念日に不倫相手の元へ行ってしまう二也

――客観的にドラマを見ていかがでしたか?

 このドラマは会話劇としても面白いので、どんな人が見ても楽んでいただけると思いますし、一子ちゃんの側からだけでなく夫側から見た目線も描かれているので、見た人同士で気軽に議論できる作品になっているのかなと思いました。僕はどうしても二也目線で見てしまいましたね。でも、一子目線から見れば、二也ってダメなところばかりだと思うんです。その上で今回、気を付けたのは、二也をどうやってキュートに演じるかということでした。

――岡田さんと今泉力也監督との間では、どんなやりとりがありましたか?

 ワンシーンごとに、お話しながら撮影をしていました。客観的に二也が酷いことをしてるシーンのときにはリハーサルの段階から、「二也ってここはダメですよねえ…」とか「ここは良くなかったですよねえ…」と、そんな話をしていました。

――岡田さんが、二也の一番ダメだなと思うところはどんなところでしょうか。

 二也が結婚記念日に不倫相手である美月(西野七瀬)の元に行ってしまうということですね。このシーンに関しては、なぜ二也はそうしてしまったのか僕にとっては疑問でした。全話を通して、二也は一子のことがものすごく好きだし、人としても尊敬していて、一緒にいたいと思っているのに……。普段の二也ならそんな判断はしないはずだけど、でもそのシーンから物語がどんどん展開していくので、必要なシーンだったとも思います。そんな矛盾を楽しみながら演じていました。

これまでにないぐらい感傷的になった

――演じる上で、心情が難しかったシーンはどこでしょうか?

 二人が感情的になるシーンでは、一子の言葉がすごく刺さりました。一子の言葉って、「こんな辛辣なことをよくスラスラ言うなあ」と思える部分もあって、それを受けて、僕もこれまでにないくらい感傷的になりました。そして、そういうところに、男性の弱さが如実に出ているんじゃないかなと、演じていて思いました。テーブルをはさんで、別れる・別れないと言い合う会話やその空間に、毎日毎日、緊張していました。ただ、そんな緊張感のあるシーンが多いからこそ、二人のなにげないシーンがすごく楽しかったですね。特に二人一緒の空間でコーヒーを入れて飲むシーンでは、幸せを感じながら演じていました。

―― 一子と過ごすときと、美月と過ごすときで、演じていて心境の違いはありましたか?

 実は二人に対峙するときの気持ちにそこまで変わりはなかったんですよね。二也はどっちも好きで、どっちも大事でっていう……それがダメな部分なんですけど、それは多分「公平であるべき」っていう風に捉えていたんじゃないかと思うんです。どちらかに偏りすぎた感じを出してしまうと、気持ちが悪いという感覚があったんじゃないかな……と。それでも撮影するたびにそれぞれとの距離感は変化します。特に美月を演じた西野さんとのシーンは、今思い返すとすごく難しかった気がしますね。重たいシーンも多かったし、美月の言葉が二也にのしかかってきて、通り過ぎていかないというか、抜け出せなくなるんですよね。美月の言葉を「呪い」の言葉として捉える二也の気持ちが理解できて、体も重たかったです。

――二也の無意識さは、一子にとってだけでなく、美月にとっても残酷だなと思いました。

 そうだと思います。そうじゃないと、結婚記念日に美月のところへ行くことを選んだりしないと思うんですよ。そこには一子に対しての甘えもあって。でも、そのことをすぐ認める二也の良さもあるとは思うんですよ。そんな未熟さ加減が僕はわりと好きではありましたね。僕は演じる上では、いい人間よりもダメなところのある人間のほうが好きなんですよね。そういう意味では、人によって見方が変わるし、見応えがあるドラマだと思いました。

2024.06.14(金)
文=西森路代
写真=平松市聖