象徴的なのは、原作にないあるシーン
――2019年の『ヤクザと家族 The Family』で演じた柴崎組のヤクザ・山本賢治とはまるで異なり、終始抑えたような演技が印象的でした。
狂児は基本的にはずっと20%くらいで生きてきたのではないかと思います。感情が極端に揺さぶられることもないし、歯を食いしばって100%で生きることもなかった。
でも、聡実くんと出会ったことで、それまでモノクロだった狂児の世界に色が生まれ、世界が変わっていく。山下監督は、この作品では“聡実の感情がどう変化していくのか?”だけを描くことを選択し、僕たちもそれに共感していました。狂児が感情を見せないことを徹底させたのも、幻のような見え方にしたのも、大切な時間でした。
――狂児の感情を抑えることで、より聡実くんの思いや行動が浮き上がってくることを狙ったのでしょうか。
狂児だけでなく、学校や自宅、聡実くんのまわりの世界は淡々と変わらない。それが聡実くん自身の変化の過程を引き立たせています。聡実くんだけが、シーンを重ねるごとに感情の動きが激しくなっていく。
象徴的なのは、原作にはない「映画を見る部」のシーンです「映画を見る部」の栗山くんは最初から最後までまったく感情の波が変わりません。一方で「映画を見る部」を訪れる聡実くんは、どんどん自分の感情をコントロールできなくなっていく。登場人物やシーンのすべてが、聡実くんの成長と変化を描くものとして健やかに配置されています。
2024.01.17(水)
文=相澤洋美
撮影=平松市聖
ヘアメイク=石邑麻由
スタイリング=三田真一(Kiki inc.)