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コロナ禍の接触確認アプリを覚えていますか?

──「責任の追及」や「批判」ではなく、お互いを認め、高め合う会社だから、「働きがいのある会社」として選ばれるのですね。

 そう思います。でも残念ながら日本にはまだ「責任の追及」や「批判」の文化が強く残っていますよね。

 たとえば2020年の6月、コロナ禍の真っ只中に開発された接触確認アプリを覚えていますか? あれは、もともとは未曾有の危機になんとか貢献したいと有志が集まってつくったアプリでした。それが政府の目にとまり採用されたのです。

 誰も予測できなかったコロナ禍という事態のなか、非常に短期間でリリースできた画期的なソフトウェアだったにもかからず、リリース後に出た一部の不具合がSNSでさかんに叩かれ、開発者たちは心が折れて、アプリ終了となってしまいました。

 昨年のマイナンバーカードの混乱を見ていても、進め方の強引さはあるにせよ、「そもそもシステムにバグはつきものだ」ということがもっと理解されないと、日本はグローバルで取り残されてしまうと思います。

──「うちの会社では絶対無理」と諦める前にできることはありますか?

 社内で意見を言うのが難しい場合は、社外の第三者の力を借りるのもおすすめです。たとえば、ダイバーシティ経営の専門家に「女性が働きにくい会社は生産性が下がり、グローバルで生き残れない」と話してもらうのもいいでしょうし、僕の本を上司に紹介して「会社のカルチャーを変えたらマイクロソフトは業績も人も“世界一”の会社になった」と事実を伝えるのもいいと思います。

 経営層に進言するのが難しければ、まずは自分のグループやチームにおいて、批判ではなく「今回は残念な結果だったけど、挑戦してくれてありがとう。次にどうすればいいのかわかったよ」「反対意見を言われて、どうしたらもっとよくなるか考えられた」とポジティブフィードバックを返す癖をつけることから始めてみるのも手です。

 できもしない完璧主義と批判ではなく、ポジティブフィードバックで、いま自分にできることをみんなが考えられる好循環が生まれたら、日本の生産性は抜本的に変わると思います。

『世界一流エンジニアの思考法』

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2024.01.19(金)
文=相澤洋美
撮影=三宅史郎