ヴェンダース ずいぶん変わったと思う。当時印象に残った建物などは、今回見つけることができなかった。全部なくなってしまったんじゃないかな。例外は銀座の和光ビルぐらい。昔の渋谷駅も消えてしまったし。

 

 とにかく、東京は、変化し続ける生きもののような都市。来るたびに新しいものが建っているし、あまりにもたくさんのことが起きている。だから、その変化を許容できる東京はなかなか柔軟だと思う。

 ただ、僕が以前撮ったのはあまりにも前のこと。『東京画』なんて、いまの半分の年齢。当時の僕はただの愚かな若い男だったからね(笑)。

実は映画の最初のショットは…「スカイツリー」撮影秘話

――古いアパートに1人で暮らす男・平山は、公共トイレの清掃員。毎朝夜明けとともに目を覚まし、布団を畳み、顔を洗い、歯を磨き、髪をとかし、髭を整え、育てている植物に水を与え、掃除のユニフォームに着替え、家を出る。日が暮れると家に戻り、近所の銭湯へ足を運び、居酒屋で一杯呑み、夜は布団に入って古本屋で買ってきた本を読む。とても規則正しく、質素な生活を送っています。そして彼は、墨田区押上に住んでいる。東京の下町にフォーカスを当てたのはなぜですか?

ヴェンダース THE TOKYO TOILET(注:今回の映画の発端となったプロジェクト。有名建築家やクリエイターが渋谷区の公共トイレ17棟をデザインしている)が渋谷にあり、平山もそこのトイレの清掃員という設定だったので、渋谷からは距離のある場所に住んでいることにしたかった。毎日車を運転して渋谷へ通い、車窓を流れる景色で、中心地ではなく、外れた場所からやって来ていることを、観る人に感じてもらいたかった。

 それに、数少ない古い町並みが残っている押上が僕はとても好きなんだ。前回来たときにはなかったスカイツリーもある。スカイツリーは素晴らしいタワーだよ。時間によって色が変わるのも楽しい。

 木が好きな平山は、スカイツリーという大木の影に住んでいる、という設定もいいんじゃないかなって。実は、映画の最初のショットはスカイツリーのてっぺんから撮っているんだ。

2024.01.14(日)
文=辛島いづみ
Photographs=Takuya Sugiyama