●ファンが心つかまれた「僕の顔が良いばっかりに……」

――冒頭から、熱海くんの魅力にグッとつかまれます。「僕の顔が良いばっかりに……」というセリフと表情で、一発で好きになってしまった人が多いのでは。

田沼 顔がいい人の人生って、苦労が多いだろうなと想像するんですよ。想像しきれないですけど……。顔や形がいいことに対して、本人が客観的だったらおもしろいなと思って。内面と外見が乖離しているというか。

――謙遜するでもなく自慢するでもなく、顔の良さを事実として受け入れているんですね。

田沼 単に「そうである」っていうことで。

――その受け止め方こそ現代的なのかもしれないと感動しました。熱海くんは同性を好きなことにしても主張するのではなく、「そうである」と認めているキャラクターなのかなと。田沼先生ご自身の中にもそういう態度があったからできたキャラなのでしょうか。

田沼 あるのかもしれないし……理想として、熱海くんのようにありたいと思って描いているのかもしれません。「こうだったら楽なのにな」と。私は、自意識でがんじがらめの学生時代を送っていたもので……。人の目はあまり気にせず、好きなものとつきあって、好きなものを好きでいられるのがいいなぁと。大人になるにつれ、だんだん楽になってきていますが。

――そうした心地よさを描くことが、マンガを描く時の軸になっているのでしょうか。

田沼 今はそうですね。根本的な倫理観と自分が守りたいものは自然と反映されるんじゃないかなと思います。

2023.09.07(木)
文=粟生こずえ