日本の常識は世界の非常識

 日本で避妊方法といえば、圧倒的にコンドームが主流で、最近ようやくピルが普及。しかし、世界の避妊のスタンダードはかなり違うよう。

「世界的には、避妊している人のうち、長期的に確実に避妊でき、妊娠したいと思えば止められる“LARC”(Long Acting Reversible Contraception)を選択する人が約4分の1。代表的なLARCとして、子宮内に装着する避妊具の総称のIUDがありますが、中でも薬剤(黄体ホルモン)が付加されているものをIUSと呼び、ミレーナはこのIUSの一種です。

 また、避妊方法を分類するときに、“使用者に依る方法かどうか”という見分け方があります。ピルやコンドームは、飲み忘れたり装着できなかったりと、本人に依るところが大きい一方、インプラントやIUD、IUSは一度装着すればその後効果を発揮する“使用者に依らない方法”です。世界的には、使用者に依らず確実に避妊できる手段を選ぶ人が増えているものの、日本ではまだまだ未認可のものが多く、ミレーナは数少ない選択肢のひとつ。それでも、使用率はいまだに0.4%と少ないのが現状です」(福田さん・以下同)

21歳まで避妊が無料の国も

「日本でピルやIUDが普及しづらかったのは、人工妊娠中絶の実質的な合法化が早く、薬剤を飲むより、コンドームで避妊をし、望まない妊娠をしたら中絶をする方が“自然”と感じる人が多かったという歴史的背景も。ただ、残念ながら現在でも、日本では、避妊についての知識を学ぶ機会が乏しいうえに、そもそも避妊への偏見が根深く、料金的にもハードルが高いのが課題です。ちなみに、私が留学していたスウェーデンでは、21歳までIUD含めすべての避妊法が無料でした」

ミレーナはエンパワメント!

 福田さん自身も、ミレーナのユーザー。

「個人的には避妊インプラント(チップを腕の皮下に挿入する避妊法)を試したかったけれど、帰国後何かあったときに対応が不安なので、断念しました。ミレーナを入れるのは本当に一瞬で特に痛みもなく、そのまま仕事に行けたほど。ピルに比べて、毎日飲まなくていいのがラクだし、“誰一人私の意思に背いて妊娠をさせることができない”という解放感が大きい。自分の体のことを自分で決めているという実感は、とてつもないエンパワメントになります

●体の自己決定権とは?

体の自己決定権とは、暴力を恐れたり、他人に決められたりすることなく、自分の体に関することを自分自身で選択する権利のこと。これは、「性と生殖に関する健康と権利(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ;SRHR)」を主眼においたものであり、自分の「性」に関することや、妊娠・出産・中絶などの生殖にまつわることについて、十分な情報や選択肢を得て自分で決める権利を指す。

●世界の女性はどんな避妊方法を選んでいる?

国連の国際家族計画が、妊娠可能な15歳から49歳の女性9億6600万人がどんな避妊方法を使っているのかを2020年に調査し、2022年に発表。世界的に見ると、女性不妊手術(卵管結紮術)と男性用コンドームが最も普及。男性用コンドームやピルなどの短時間作用型が45%なのに対し、不妊手術やIUDなどの永久または長時間作用型の比率が約44%と、ほぼ同率である。
引用元:United Nations World Family Planning 2022

●お話を聞いたのは……

宋美玄先生

産婦人科医。丸の内の森レディースクリニック院長。産婦人科医の視点から社会問題の解決、ヘルスリテラシーの向上のために活躍。著書に『女医が教える オトナの性教育 今さら聞けない セックス・生理・これからのこと』(学研プラス)


福田和子さん

#なんでないのプロジェクト代表。スウェーデン留学をきっかけに、性と生殖に関する健康と権利の実現を目指す『#なんでないのプロジェクト』を開始。国連機関勤務も経て、『#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト』、W7Japan共同代表等として政策提言等をするなど活躍。

Column

私たちの体を守りケアする
フェム・ヘルス研究室

女性の心身の仕組みを理解して、快適に暮らすめための連載。「フェムテック」アイテムの紹介をはじめ、PMS、月経、更年期などの女性のしんどさを和らげて、生活の質を上げる方法を考えます。

2023.09.22(金)
Text=Anna Osada
Illustrations=Haruhi Takei

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。