(2ページ目)「あの時、客席が埋まらなかった」松下洸平が語る、演劇人生の原点

自分のやりたいことだけをやるという時間をつくる

——映像作品と舞台作品に取り組む際に、ご自身の中で切り替えスイッチみたいなものはありますか？

　僕なりの向き合い方はある気がします。栗山さんの現場は何度か経験させていただいていますが、特に稽古の時間が短いんです。午後の1時から始まって、4時か、５時くらいには終わってしまいます。栗山さんはすごく短いきゅっとした濃密な時間をくださるので、短時間で集中して、栗山さんの声に耳を傾けるというのが僕の向き合い方のひとつ。映像でも、舞台でも、その作品と向き合うことでスイッチが切り替わるのだと思います。

——俳優業はもちろん、シンガーソングライターなど幅広く活躍されていますが、松下さんにもできないことはあるのでしょうか？

　出来ない事ばかりです。今回演じる健太郎はかつて野球のエースだったという役なので、稽古場に入ったらまずキャッチボールの練習からせねばと思っています。

　以前、『木の上の軍隊』の公演で福岡を訪れていたときに、山西惇さんと一緒に野球を観に行ったことがありました。確かソフトバンク戦だったと思います。当時僕はルールをあんまりよくわかっておらず、1回から９回裏までほぼ山西さんに説明をしてもらいながら、観ていました。多分、山西さんは僕に説明することに集中されていたので、試合をご覧になっていないんじゃないかな（笑）。今は勉強して、ルールもだいぶわかるようになりました。

　僕は不器用なので、お芝居を演ったり、歌を歌ったり、単純に好きなことをやらせていただいているというだけなんです。料理をするのも好きなので、いつか本格的な和食を習ってみたいです。和食は、お店に食べに行くと丁寧な仕事をされている料理たちに本当に感動するので、極められたら楽しいだろうなと思います。

——“自分の時間”があったら、何がしたいですか？

　自分のやりたいことだけをやるという時間は出来るだけ作るようにしています。何もインプットせず出し続けていると、自分の中が空っぽになってしまって、危険な気がして。1％でも残してゼロにならないようにしないと、何かをやる気力すら湧かなくなってしまうと思うんです。だから、帰宅したら海外のドラマを見たり、一か月に一度くらいは友達とご飯を食べに行ったり、そういう時間を大事にしています。

——“旅”にはご興味がありますか？

　あります！　誰もいない南の島とか、海がきれいで自然の多い場所に行ってみたいです。せっかくなら飛行機に乗って、どこか遠いところがいいですね。

——『闇に咲く花』では神社が戦争で傷ついた人々の憩いの場所として描かれているとおっしゃっていましたが、松下さんの日常の中にある“小さな幸せの場所”はどこですか？

　友達と一緒になんの生産性もないことを話しているときかなぁ。次の日に思い返した時に何の話だったかを全く覚えていないくらいの時間（笑）。何の身にもならないようなことを延々とはなしているのがすごく楽しいですし、気を許せる仲間たちと話したり一緒に過ごしたりするのが何よりも好きなので、そういう時間が“僕の憩う場所”なような気がします。

松下洸平（まつした・こうへい）

1987年、東京都生まれ。2008年にシンガーソングライターとしてデビュー。翌年にミュージカルで初舞台を踏んで以降、俳優としても舞台や映像で活躍している。NHK連続テレビ小説『スカーレット』（19）のヒロインの夫・十代田八郎役で注目を集める。第26回読売演劇大賞杉村春子賞・優秀男優賞受賞、第73回文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞。主な出演作はドラマ『最愛』（21）、『アトムの童』（22）、『合理的にあり得ない』（23）、映画『燃えよ剣』（21）など多数。映画『ミステリと言う勿れ』が9月15日より公開予定。TVer初のオリジナルドラマ「潜入捜査官松下洸平」が9月に配信予定。7月19日に3rdシングル「ノンフィクション」を発売し、2024年1月からは全国12カ所14公演の「KOUHEI MATSUSHITA LIVE TOUR 2024（仮）」が決まっている。