川村元気のベストセラー小説「百花」が、待望のAudible(Amazon制作のオーディオブック)となる。

 「百花」は川村自身が監督し、菅田将暉、原田美枝子主演で映画化され、第70回サン・セバスティアン国際映画祭にて日本人初となる最優秀監督賞を受賞。この小説の朗読を務めるのは、実力派人気声優の入野自由。『千と千尋の神隠し』『言の葉の庭』『おそ松くん』『聲の形』など多くのヒット作品で声優をつとめ、舞台俳優としても活躍する入野にとって、小説をまるごと一冊朗読するのは、意外なことに初めての経験だという。

 Audible『百花』の収録現場に川村元気が足を運び、ふたりの対談が実現した。入野自由はどう朗読に挑むのか、入野は川村に疑問をぶつけた。


川村 「世界から猫が消えたなら」や「百花」など、僕の小説のいくつかは英語やフランス語でも訳されていて、翻訳家と接する機会がありました。そのとき知ったのですが、翻訳者は文体のことを「ボイス」というんだそうです。作家が持つ文章のトーンや世界観を「ボイス」と表現していることにとても納得しました。「声」と「文体」はすごく似ていると思って。今日、入野さんが収録されているのを横で聞いていて、僕の「ボイス」をとてもよくわかっていただいているなと思いました。

入野 Audibleでは僕の主観は入りつつも、できるかぎりフラットに読もうと思っています。感情は文章にすでに書かれていると思うので、聴く人たちに解釈してもらいたいので。

川村 僕も文章を書くとき常にそう思っています。悲しいことはドライに書くほうがその絵が読者の脳裏に浮かぶと思う。書き手がエモくなっちゃうと読み手は冷める。僕の「ボイス=文体」がそうだから、Audibleでも直接的な感情芝居はないほうがよいなと思っています。たまにAudibleをめちゃエモく読んでいるのがあって、そういうのは僕の小説にはあわないなと思っていたので。

入野 今回の「百花」の朗読に、川村さんが僕を指名してくださったと聞きました。新海 誠監督からも川村さんのお話はよく聞いていました。共通の知り合いが多いけれど、今日はじめてお会いするんですよね。

2023.05.19(金)
文=文藝春秋電子書籍編集部
撮影=石川啓次