僕のまわりの人が、入野さんを絶賛している

川村 新海 誠監督、山田尚子監督など、自分の周りで仕事をしている人が入野さんを絶賛しているんです。素晴らしい才能の持ち主だと。それで僕も仕事をしてみたいと思っていたんです。声の良さはもちろん、お芝居も信頼できるなと思ってお願いしました。入野さんの普段の舞台を観ても、声優の仕事のときもニュートラルなので、そこが「百花」にぴったりだと思って。

入野 ありがとうございます。

川村 小説という媒体は、地の文とセリフがあるけれど、Audibleとして、どこまで感情を入れて読むか、難しいと思うんです。今回はどのようにアプローチしましたか?

入野 まず小説の『百花』を読んで、次に川村さんが監督を務めた映画『百花』を観て、疑問点を補うようにまた小説を読み込みました。映像では知りえなかった部分はやはり小説にあって。その2つに触れて自分の中で想像を膨らませました。『百花』は、自分自身と重なる部分が多いんですよね。主人公の泉の年代的にもそうですし。親が認知症になるとか、他人事じゃない年齢にさしかかってもいますし。僕の父が介護の仕事をしていたので、認知症や介護の具体的な経験を聞いたこともあります。

 ところで、ちょっと聞きたかったことがあって。小説の中でセリフが括弧書きになっている部分と地の文にまぎれている部分がある。あれは何か理由があるのでしょうか?

2023.05.19(金)
文=文藝春秋電子書籍編集部
撮影=石川啓次