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イングマール・ベルイマンの影響

――映画監督同士である夫婦のすれ違いを描いた、前作『ベルイマン島にて』(2021)を観たのですが、ミア・ハンセン=ラヴ監督はイングマール・ベルイマンにも強い影響を受けているように感じますね。彼の映画『愛のさすらい』の音楽も今回、使っています。

メルヴィル そう、ミアはロメールとベルイマンに最も大きな影響を受けていると思います。彼女の場合、自分の人生が映画になっているのではなくて、映画を作るために人生を生きている。そう感じますね。普通は逆でしょうけど。『それでも私は生きていく』は父親の病気だけでなく、8歳の娘がいるという設定も同じですし、彼女の現在のパートナーは実際に僕とちょっと似ているんですよ。

――“人生と映画が重なる”ということについて、お二人はどのように感じますか? 全く分けて考えていますか?

メルヴィル 僕個人としては、若い頃からハリウッドの黄金時代の映画や、架空の世界を描くようなファンタジーが好きなんです。もしくはフェデリコ・フェリーニの映画のように、イマジネーションを掻き立てるような映画が好みなので、実はこういう現実的な映画は、そこまで観ないんですね。でも、俳優としては現実の経験を生かして、感情を乗せて演じている。

 実際、普段の生活の中で「あ、この感情や声は、演じる時に使えるな」と思う瞬間があるんです。たまに、ですけどね。でも僕は役者ですから、あくまで役を演じているのであり、僕の人生そのものを投影したりはしません。声や感情を、手段として使っているということですね。

――演じている役に引きずられることはないですか?

パスカル 私は全く引きずりません。1日の撮影を終えたら、さっぱり役のことは忘れます。完全に、仕事と私生活は切り離していますね。この映画でいえば、記憶が薄れて言葉も出なくなるような役を家に帰っても引きずっていたら、私がおかしくなってしまいますから。全く別物ですよ(笑)。

2023.05.05(金)
文=石津文子