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山口真由さんは採卵5回で凍結卵子15個

〈37歳。未婚。子なし。同居人は妹。凍結された卵子15個。〉

 情報番組のコメンテーターとしてもお馴染みの山口真由さん(信州大学特任教授)が近著『「ふつうの家族」にさようなら』に書いた自己紹介だ。昨年、妹と一緒に卵子を凍結保存している。「妹は1回の採卵で19個採取できたのに、私は1個。1歳しか違わないのに、この差はなんだと」

 そのため採卵は5回行い、結局15個の卵子を凍結保存することができた。凍結卵子は35~40個あれば安心といわれているので、少し心許ないかもしれない。「結婚も出産もするかもしれないけれど、ひとりで生きていけるように、そのために一生懸命勉強して手に職を付けた。そんな自分は今、幸せだと思っている。でも勝手なもので、もしかして子どもができないかもしれないと思うと、途端に不安になり、寝付けなくなることも」

 もっとも、卵子の数が少ないと妊娠しないということはない。妊娠のカギを握るのは、数ではなくあくまでも卵子の年齢なのだ。

 山口さんはハーバード大学ハーバード・ロースクールで家族法を研究した。家族法の教授には何人か選択的シングルマザーがいたことに大変驚いたそうだ。選択的シングルマザーとは、離婚や死別によってシングルマザーになるのではなく、自分ひとりで子育てをしようと自分の意思でシングルマザーになった人をいう。

 「日本の家族は、血のつながりがその構成要因だと考えられていますが、アメリカでは第三者の精子や卵子の提供を受けてつくる家族もフツーにあります。そういう仕事に携わるアメリカの弁護士は、精子バンクで買った精子によって産まれた子どもが、それを知って傷つくことはないのかという私の質問を愚問だと言わんばかりにこう答えました。『ニューヨークの学校では、精子バンクで産まれた子どもはめずらしくない』と」

日本では精子提供のドナーを選べない!

 日本には第三者からの精子提供に関しては昨年末、「卵子・精子提供の親子関係特例法案」が可決・成立したが、生まれた子どもへの卵子・精子提供者の情報開示、つまり出自を知る権利については2年後をめどに必要な措置を講じるとされ、法整備は進んでいるとは言い難い。日本産科婦人科学会は営利目的での精子提供に医師が関与することを禁じており、夫が無精子症の夫婦にのみ匿名のボランティアから提供された精子を人工授精することが認められている。これを実施している医療機関は全国でわずか12カ所だ。

 アヤコさん(仮名・40)のイギリス人の夫(36)は無精子症のため、夫妻は3年前に第三者から精子の提供を受けて子どもを授かった。「日本で人工授精したかったのですが、ドナーを選ぶことができない。しかもドナーについては血液型しか教えてくれない。私にしてみれば、どんな人かまったくわからない人の精子を膣内に入れるのは気味が悪かったし、そういう人の子どもを産むことに抵抗がありました。何より、生まれた子どもが将来、遺伝子上の父親について知りたくなった場合、何も答えることができないなんて、子どもは何か欠落しているように感じるでしょう。そこで、アメリカの精子バンクを利用することにしました」

 その精子バンクは、ドナーの身体的特徴や出身大学、精子の運動率、子どもの頃の写真も公開している。夫妻はもし自分たちの実子であればどんな顔、姿になるかを想像しながら、イメージに近いドナーを選んだ。精子は空輸され、人工授精は夫の故郷であるホンコンの病院で行った。2度目の人工授精で着床し、美しい女の子が誕生した。

「娘は1歳半なのでまだ理解できるはずもありませんが、精子を提供してくれた優しい人がいること、そのお陰であなたは生まれることができたということを話して聞かせているんですよ。パパが無精子症だということも隠していません。日本では隠す人が多いようですが、男性の100人に1人が無精子症ですから、珍しいことでも恥ずかしいことでもないんです。

 アメリカで同じドナーから精子提供を受けた6つの家族とは連絡を取り合う仲で、夫が無精子症であることを誰も隠していません。昨年のクリスマスには6家族でオンライン飲み会を開催しました。遺伝子的には娘の異母兄弟となる6歳の男の子は、娘がケガをしたら日本に飛んできて僕の血をあげると言ってくれたんですよ」

 アヤコさん夫妻は、精子の提供を受けてもう1人、産みたいと考えている。日本でそれができそうだと知ったからだ。どういうことかというと──。

2023.04.11(火)
文=小峰敦子