家で料理の猛特訓。和食が作れるようになり母は大喜び

――是枝監督は、オーディションでの出口さんに「役を取りに来た」と感じたそうですが?

出口 実際に演じることになったすみれ役だけでなく、いろんな役を演じました。その場で台詞を伝えられるのですが、とにかく楽しくてしょうがなくて。冷蔵庫のプリンを食べられて怒る役を演じたときは、人前であんなに大きい声を出している自分に驚いたくらい。恥ずかしさもなく、自分でもびっくりするオーディションでした。

――作品のどんなところに魅力を感じましたか?

 (舞妓さんの格好では)携帯も持てず、コンビニもファストフード店にも入れない生活の中で、女の子たちが夢のためにがんばる世界にまず驚きました。お互いを支え合いながら、たくましく生きているところがかっこよかった。私自身、かっこよく生きたいと思っているので、この役を通して近づける気がしたんです。

 それに、夢を綴っているノートに書いていたくらい、そもそも私は是枝作品に出たいと思っていて。是枝さんの演出でお芝居ができたら、すごく素敵だろうなと思いました。

出口 私はキヨとすみれ、舞妓さんと見習いさんのように、立場が違う人それぞれに世界があることを、この作品で知りました。劇中にも出てきますが、作る人と作られる人、見送る人と見送られる人、それぞれに喜びがある。すごく大事なことを教えてもらえた気がします。

――舞妓の見習いから、共同生活を営む屋形(やかた)のまかないさん(ご飯を作る仕事)に転身するキヨを演じた森さんは、撮影前に料理を特訓したとか?

 実家暮らしでほとんど料理をしたことがなかったので、とにかく練習することから始めました。最初の頃は、飾り切りが無惨にまっぷたつになったりして(笑)。フードスタイリストを務められた飯島奈美さんに直接教えていただいたときには、是枝さんや夏希ちゃんも来てくれて、みんなで味見係をしてくれたんです。親子丼、唐揚げ、なすの煮浸し……。ドラマに出てくるほとんどの料理を作りました。そのとき、夏希ちゃんは親子丼を人生で初めて食べたらしくて(笑)。そんな人います?

出口 食わず嫌いだったんです(笑)。でも、人生初の親子丼を七菜ちゃんが作ってくれるって、本当に贅沢ですよね。「なんだこれは!」って思うくらい美味しかったし、そこから大好きになりました。

 撮影に入る前の半年くらいは、毎晩家族の料理を作って練習していたので、お母さんがすごく喜んでくれて。料理の練習にもなったし、キヨが料理を振る舞いたくなる理由も見つけられた気がしました。

――料理をするときの手元のアップなども、実際に森さんが演じられたんですか?

 そうですね。もし差し替えると言われても、「自分でやります」と言ったと思いますね。スローモーションのシーンは、ちょっと勘弁してくれよって思うくらい大変でしたけど(笑)。

――出口さんは、京舞井上流5世家元・井上八千代さんから京舞を教わったそうですね?

出口 修学旅行とかで見たことがある舞妓さんは、すごくキレイで華やかなイメージがあったんです。でも彼女たちが実際にやっている稽古を体験してみて、こんなに大変なんだと驚きました。ずっと腰を下ろして舞うので、階段も登れなくなるくらいプルプルになっちゃって。もう、笑うだけでお腹が痛くなるくらい。まずは基礎体力をつけるためにジムに通って、プロテインを飲むことから始めました。

――“100年にひとりの逸材”を演じる上で、かなり厳しく指導を受けたとか。

出口 お稽古をするために京都にたくさん通ったのですが、姿勢から歩き方から指先の動きまで、本当に全部注意を受けて。お稽古をするたびに、怒られて、泣いての繰り返しでした。逃げ出したくなるくらい大変だったし、もうできないと思ったくらい。

 でもあるとき、「なんでこんなに怒られなきゃいけないの?」と思ったら、すごく悔しくなって。「今日のお稽古では、お師匠さんになにを言われてもめげないし、負けないぞ!」という気持ちで臨んだその日は、初めて怒られなかったんです。きっとお師匠さんは上手い下手じゃなく、私の気持ちを見抜いていたんだなと思って。そこからは、お稽古に対する姿勢が変わりました。

――お互いが出演するシーンでお気に入りは?

 すーちゃん(すみれ)が襖の隙間からお座敷を見ているシーンです。先輩のお座敷をしっかり目に焼き付けるぞという気持ちが、本当に伝わってきたというか。目のうるみやまばたきひとつから、そう感じました。嘘がひとつもない夏希ちゃんの魅力がすごく出ていたし、すさまじさを感じたというか。

出口 私は、風邪をひいたすみれのために、うどんを作ろうといろんなお店を回って材料をかき集めてくるキヨちゃんのシーン。そこがすごく好きです。すみれのために一生懸命な姿に感動しちゃいました。

2023.01.13(金)
文=松山梢
撮影=榎本麻美
スタイリスト=申谷弘美(森さん)、Shohei Kashima/W(出口さん)
ヘアメイク=宮本 愛/yosine.(森さん)、中山友恵(出口さん)