世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第6回は、芹澤和美さんが中国安徽省で訪れた美しい村でのエピソード。

入村料を払い、外国人未開放地区の村へ

 今から800年前、街を風水に基づいて再開発したところ、たちどころに繁栄した村が、中国・安徽省にある。しかも、街並みは今も当時のまま――宏村というその村は、世界遺産としても有名な名峰、黄山のふもとにある。

蓮の葉が茂る湖のむこうに住宅街がある

 この村と同様、黄山の周辺には、数百年前の姿を残す集落がいくつかある。それらは「安徽省の古民居群」として世界遺産に登録されているが、なぜか、多くが外国人未開放地区。かといって、外国人は立ち入り禁止かといえばそうではなく、入村料を払えば、容易に村に入ることができる。

 村に入り、目にしたのは桃源郷のような風景。中央の池を取り囲むようにして、白い壁と黒い屋根瓦の家が建ち並び、合間を水路が流れている。背後には凛とそびえる山、池の水面に映るのは、美しい街並み。山紫水明とはまさにこのこと。まるで山水画の中に迷い込んだかのようだ。

私が訪れた当時の入村料は50元、パスポートに許可印をもらう必要があった。現在も外国人未開放地区には変わりはないが、入り口にはブースができ、ここでチケットを買い入村する、テーマパークさながらのシステムになっているようだ

 村は、「牛臥招福(牛の豊かな形が富貴を呼ぶ)」という風水ルールにしたがい、全体が一頭の牛の体に見立てられている。村の入り口に立つ2本の木は牛の角、村の西にある丘は首、住宅街は胴体、山から引いた水を貯水する中央の池は胃袋、すべての家の前を通る水路は小腸、その水路から出た水が溜まる湖は大腸、村の周りを流れる川にかかる4本の橋は脚、という造りだ。

村じゅうに張り巡らされた水路は、つねに水が流れるようになっていて、衛生的

 これだけでもみごとな街づくりだが、さらに感心させられるのは、その巧みな人工水系。胃(池)から出た水は、小腸(水路)で洗濯や炊事などの生活用水として村人に利用され、大腸(湖)へと送られる。湖では淡水魚が飼われていて、流れてきた生活排水はここで浄化される。きれいになった水が、村の外にある自然の川へと流されるのだ。

 今から数百年も前に、こんな小さな村でエコかつ高度なインフラが築かれていたとは。先人の知恵に驚かされる。

中心部にある貯水池では、村人たちが洗濯をしたり、野菜を洗ったり

パーフェクトな風水で繁栄したその村の中には……

2013.11.05(火)
text & photographs:Kazumi Serizawa