米津玄師に振付をする時に大きく役立った“アプローチ”

――その差を埋めるためにどんな工夫をしたんですか?

辻本 大人になってから始める以上、ダンスを短期で習熟するための戦略を練りました。まず「柔軟性」――どこもかしこも柔らかくするのではなく、自分にとって必要な箇所の「動きの可動域を広げる」ことにフォーカスしました。

 ストリートダンスでは硬さがあったほうがかっこよく決まる場面も多い。だったら硬い部分を残して、その対極で体のどこを柔らかくすれば硬さが素敵に見えるのか? そんな発想で、細く長い筋肉をつけやすい独自の「ストレッチしながら筋トレ」に取り組みました。本に詳述しましたが、この「あえて硬さを残すアプローチ」は、のちに米津玄師さんに振付をするときに大きく役立ったんです。

 

 もうひとつは「ビジュアル」、自分の見せ方の探究でした。わかりやすくいうと、ファッションが変わるとそれだけで歩き方や、全身の出で立ちが変化します。Tシャツでかっこいい動きと、ジャケットで美しく見える動きは当然異なります。当時の僕は意識的にジャケットを着るようにして、日常生活の中から身のこなしの型をつくっていった。

 例えば「なで肩のストンとした肩まわり」とか具体的なイメージを強くもって生活していると、筋肉の付き方も自然に変わってくるんですね。文字通り、自分の理想とする骨格に近づいてくる。服とそれに応じた体の見せ方、自己イメージの持ち方は互いに深く響き合っていますから。

 これはダンサーだけでなく誰にでもあてはまることで、こうありたいという自己イメージひとつで、体つきもどんどん変化するんです。

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――希望が湧いてくる言葉ですね(笑)。ストリートダンスとバレエの両方に取り組んだことがコンテンポラリーダンスの道へと繋がっていったんでしょうか。

辻本 はい、バレエを徹底的にやろうとしていた中で、コンテンポラリーダンスに出会えたのが幸運でした。コンテンポラリーは「自分で自由につくっていいダンス」。Noismの振付家・金森穣さんのもとで、バレエを極めた先にある自由で既視感のない踊り、ダンスと日常動作の境目にある動きの面白さなどに目覚めていきました。

2022.11.07(月)
文=辻本知彦