ハプスブルク大貴族を気取る旅

 実はウィーンの世界遺産、シェーンブルン宮殿でも1,441室ある宮殿内の1室のみで宿泊できる。ハプスブルク皇帝の夏の離宮には幼少期のマリー・アントワネットや、愛称シシィ、エリザベート皇妃も暮らした。

 広大なバロック庭園に、世界最古の動物園までがあり、当たり前に馬車が行き交う、荘厳にして癒やしの宮殿だ。2ベッドルームに4名まで宿泊可能、1泊約10万円は希少価値からすれば驚くほどリーズナブルだ。

 朝は馬の蹄の音で目を覚まし、朝食はモーツァルトを生演奏で聴きながら。ならば、19世紀の大貴族の暮らしを自ら演じてみたい。幸いウィーンは美しく時が止まった、貴族文化が残る街でもあり、栄華を極めた時代を体感するチャンスが数多くある。

 宮殿の庭園で行われる野外コンサートは、花火に興じる人々の目を盗み、貴族たちが“迷路の森”でアバンチュールに耽った真夏の夜の舞踏会を彷彿させるし、1月2月はウィーン中の200カ所以上で催される本物の舞踏会にカップルで参加するのもいい。

 現地でダンスを習い、イブニングドレスを借り、身支度を整えて宮殿から出かけ、踊り疲れたらまた馬車で戻ってくる、そんなふうに自らが体験に没頭することで初めて得られるものがある。

 かくして、時空間の歪みに自ら落ち込んでいくような前後不覚の感覚をあえて楽しんでこそ、非日常を生きる旅の醍醐味と言えないか。

Austria Trend「シェーンブルン宮殿」

https://www.austria-trend.at/en/hotels/schloss-schoenbrunn-suite

齋藤 薫

美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌で数多くの連載を持ち、化粧品の解説から開発、女性の生き方にまで及ぶあらゆる美を追求。本連載では、旅先で出合った出来事から、姿勢や心持ちの美しさについて綴る。

Column

齋藤薫のTRAVEL NOTES「心に残る時間」

さまざまな女性誌で活躍する美容ジャーナリストの齋藤薫さんが、旅の中で出会った“美”をきっかけに感じたことを綴ったエッセイ。

文=齋藤 薫
写真・撮影=WEFT Hospitality(Ninna-ji)、Austrian National Tourist Office(Wien)、橋本 篤