デザートタイムも場所を変えて

 洋室でいただくデザートは、すべて手作りだ。

「日本には何でもある。フランスより美味しいバゲットに、質のよい野菜、牛肉、素晴らしいレストランやパティスリーまで。でもノワ・シャランテーズはない!」

 嘆くファビアンさんのために、故郷の町・アングレームの郷土菓子を麻奈さんが作っている。

 “ノワ・シャランテーズ”は、小さなシューにプラリネクリームを詰め、チョコレートをかけたもの。レシピが日本で手に入らず、お菓子研究家の相原一吉さんに起こしてもらった。

「現地の半分以下の大きさ、甘さも半分にしてもらいました(笑)」

「ふだん、一緒に食事をするのは1日1回程度。日本人同士なら、同じものを食べたい確率は高いでしょう。でもうちは、なかなかそうはいかないんです」

 だから、朝と昼は各々食べたいものを好きな時間に。食べることを大切にしているからこそ、ストレスを溜めないための選択だ。

 この選択をしたのは食事の「温度差」を感じてから。西洋では熱々の料理がほとんどなく、彼は熱々のスープや麺類が苦手。でもフランス人は冷えた肉料理を好まない。

「ローストビーフを出したら、温めてって(笑)」

 とはいえ、日本食が大好きなファビアンさん。フランス料理が続くと、「和食が食べたい」とリクエスト。

 梅干しを作り、季節になれば、筍を何本も茹で、ふたりで筍を炙りもする。

 食を大切に育むふたりの時間は、人生に素晴らしい豊かさをもたらしてくれている。

友を迎える日の
Time Schedule

・7:00    各自朝ごはん

・11:00    友だちがやってきてアペロ始まる。延々と……

・17:00    夕ごはん

・21:00    デザート

Their Seeds

“温度問題”で知った
歩み寄りと折り合いの付け方(笑)

ローラン麻奈(ろうらん・まな)さん
フォトグラファー

神奈川県生まれ。沖縄・竹富島で幼少期を過ごす。三木麻奈の名前で雑誌や書籍制作などで活躍。手がけた単行本は『ひとりを愉しむ 食事』(文化出版局)など。

あたらしい暮らし
楽しい暮らし

2022.04.11(月)
Text=Mika Kitamura
Photographs, Food coordinate & Styling=LAURENT Mana

CREA 2022年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

CREA 2022年春号

あたらしい暮らし 楽しい暮らし

特別定価880円

「CREA」2022年春号の特集は、「あたらしい暮らし 楽しい暮らし」。激動する時代の中“楽しい暮らしの正解”はなくて、きっとそれは百人百様。でも人生100年時代となり、キャリアがマルチステージ化していくと言われる世界を、自分らしく楽しむためには、自分の中に「種」を持っていたい。今すぐじゃなくても、ちょっと先の未来に芽が出るような、小さくても、強い種を――。