想像力を働かせて 生きている限り豊かでいたい

 ふと気づいたが、高橋さんが生まれたのは赤坂。東京のど真ん中で育った正真正銘の都会っ子なのに、まるで緑豊かな田舎から上京した人が、大都会を嘆くみたいな口ぶりだ。

「けれど、赤坂御所のまわりも自然がいっぱいありますから。子どものころには狸を追っかけたりしていました。ただ、小学校へ行くとやっぱりいるわけです。髪をデップで固めたやつらが(笑)。そういう人たちと接するうちに、少しずつ自分も都会に毒されていく感覚はありました」

 そんな自分に目覚めるきっかけになったのが、20代前半で久しぶりに山に登ったときのこと。

「夜の暗闇に恐怖を感じたり、大げさかもしれないけれど死んでしまうかもしれないと思ったり、そういうことに直面するわけです。テントの中にいても、外の音が気になりはじめて、『人間じゃないな。猪かな』などと考え出すとドキドキしてくる。そういう想像力が働く瞬間は、脳のシナプスが伸びている感覚があるんです」

 もちろん、毒を毒と感じない人たちのことを否定しているわけではない。それはそれで幸せだと思う、とも。ただし、自分が毒になり得る要素だと思ったら、水と油のようにしっかりと毒に混ざらないように分離させないと、感覚が死んでしまう気がすると言う。

「そうやって山から帰って来たとしても、実際は何も変わらないんですけれど。結局、都会というものに取り込まれてしまうわけですから。ただ、人間が無力な存在であるということを確かめると同時に、想像力を働かせに行く行為は、自分にとても合っているんだと思います。

 豊かでいたいんです。生きている限り。いつかは死ぬと、わかっていても」

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高橋一生(たかはし いっせい)

1980年12月9日生まれ、東京都出身。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。近年の主な出演作は映画『ロマンスドール』、『スパイの妻〈劇場版〉』、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、ドラマ「岸辺露伴は動かない」、「天国と地獄~サイコな2人~」、舞台『天保十二年のシェイクスピア』など多数。

舞台『フェイクスピア』

これまでにシェイクスピアの作品をモチーフとした数々の戯曲を手がけてきた野田秀樹さんが、改めて生の演劇の快楽や我々が生きる現代を挑戦的に描き出す新作舞台。作・演出:野田秀樹 出演:高橋一生、川平慈英、伊原剛志、前田敦子、白石加代子、野田秀樹、橋爪功ほか 東京芸術劇場プレイハウスにて上演中~7月11日。※大阪公演あり

2021.06.07(月)
Text=Kozue Matsuyama
Photographs=Sai
Styling=Takanori Akiyama(fashion), Kiyomi Shiraogawa(interior)
Hair & Make-up=Mai Tanaka(MARVEE)
Cooperation=PROPS NOW, SCRAP PAGES, AWABEES

CREA 2021年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

ちょっとだけアウトドア

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