自分で意識したこともなかったので、そういえばなんでだろうと、そこで初めて考えてみたんですけど、わからなくて。

 それが、家で洗濯物を畳んでいる時ふと「そういえばチャンソンって、初恋のこうちゃんに似ているかも」と、突然思い出したんです。それが40歳の時でした。

心のどこかにいつも「こうちゃん」がいたのかも

 
 

――『わたおぼ』に登場する「こうちゃん」が、その初恋の「こうちゃん」なんですか?

東村 そうなんです。近所に住んでいた3歳年下の男の子で、茶色い髪が光に透けるときらきら光って、天使みたいにかわいい子でした。よく一緒に遊んでいたんですけど引っ越してしまって、それきり会えなくなってしまったんです。

 言われてみると、私が好きになるK-POPアイドルはいつもその「こうちゃん」に似ている顔立ちだったので、もしかしたら心のどこかにいつも「こうちゃん」がいたのかもしれませんね。自分ではまったくそんなふうに思ったことはありませんでしたが。

「隠れショタコン」みたいな感じで、必死に気持ちを隠していた

――設定までそのままなんですね。それまで思い出さなかったというのは、逆に何か苦い思い出でもあったのでしょうか。

東村 私は宮崎の田舎出身で、しかも30年も昔の話ですから、最上級生の6年生の女子が3年生の男子を好きになるなんて、絶対にあってはいけない話だったんです。しかも私には2歳下の弟がいるんですけど、その弟より年下が好きだなんてばれたら、一生後ろ指さされます。そういう時代と土地柄だったので、今にして思えば「隠れショタコン」みたいな感じで、必死に好きという気持ちを隠していたんだろうと思います。

 近所なのでよく一緒に遊んでいたし、ウチにもよく遊びに来ていたんですよね。ものすごい好きだったのになあと、今になって思います。

「この気持ちは絶対に誰にもばれちゃいけない」という強迫観念

――隠していたとはいえ、つい目が追いかけてしまうとか、何か行動に出ていたのでは。

2021.03.09(火)
取材、構成=相澤洋美
写真=松本輝一/文藝春秋
ヘアメイク=後藤るみ
スタイリスト=藤原わこ