私は妹の言葉を一番信頼している

 一面オーシャンブルーのTシャツの中に、真っ白なニットを着た妹がいるではないか。

 紛れもなくウチの妹。海に浮かぶ真っ白な砂浜の如くそこには妹がいた。ロックだぜ! かっこいいぜ! それでこそウチの妹だぜ!

 ステージから見た妹の姿は、私にはまさしくロックスターだった。

 自分が着たいものを、ただ着る。PTAだろうが式典だろうが姉がサプライズ登場しようが関係ないというスタンス。やはり妹は何も変わっていない、昔から芯が通っていてハッキリしていて、だからこそ私は妹の言葉を一番信頼している。

 私が大学入学で上京してから、初めて実家に帰省した夏休み。

 誰にも言えなかった「東京で芸人になりたい」「テレビに出たい」「もうすでに勝手にお笑いの養成所に申しこんだ」という思いと事実を、妹にだけは素直に話せた。妹はたいして驚くこともなく「いいんじゃない」と言ってくれた。

 マンションを購入する時もほぼ誰にも相談しなかったのだが、妹にだけは話していた。「なんかお姉ちゃんは大丈夫な気がする」この妹の言葉のみを信じて、人生最大の買い物をした。

 こんなにも姉は妹信者であるが、実は私が『イッテQ!』に出始めた頃、目立つのが大嫌いな妹は姉が芸人で珍獣ハンターであることをひた隠しにしていた。

 同級生などに「あの眉毛の太い人ってお姉ちゃんだよね?」と聞かれてもハッキリと「違う」と言っていた。姉としてはちょっぴり複雑な気持ちだったが、流石(さすが)はロックスター、ブレない姿勢に感心すらしていた。

 そして、私が南米最高峰のアコンカグアという山を登った時のこと。

 標高6960メートルのてっぺんを目指し挑んだのだが、結果、あと100メートルのところで撤退した。登山では初めての撤退、山での悪天候やコンディションの悪さには誰も逆らうことはできないがあと一歩、正直死ぬほど悔しかった。その様子が放送されたあと、妹から1通のメールが来た。

 「わたしはお姉ちゃんが自分のお姉ちゃんということを誇りに思う」

 死ぬほど悔しかったのと同じくらい死ぬほど嬉しかった。

 それ以降、妹は眉毛の太い姉の存在を隠すことはなくなった。心からアコンカグアに全力で挑んでよかったと思ったが、すぐさま、ただそこはロックな妹、今後もいつ何時またひた隠しにされるかもしれないと思うとその後の日々の仕事に精がでた。

 うん、やはり妹にはどこかそういう存在でいてほしいのだ。

 きっと今回の連載も目立つのが大嫌いな妹に言ったら怒られるのだろう。なのでダサい姉は、妹に気付かれるまではこのことは隠しておこうと思うのである。

 後日談

 結果、このエッセイは妹に読まれました。

 「面白かったよ」というメールに安堵している姉です。

 今も変わらず妹は私にとって最高の親友で、どんなに遠くに行ってもいつもの自分に帰ってこられるのはアンカーのような妹の存在のおかげです。

イモトアヤコ

1986年1月12日生まれ、鳥取県出身。2007年から日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』に出演。ドラマ、舞台など俳優業にも活躍の場を広げる。『棚からつぶ貝』が初めてのエッセイ集となる。

『棚からつぶ貝』

著・イモトアヤコ 本体1300円+税 文藝春秋
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2020.12.13(日)
文=イモトアヤコ